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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第一章 はじまり

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間話 交易の町1

2章前日譚みたいなものなので、2章に入れようかとも思いましたが、思い切って間話です。

3話ほどでこちらの話は終わる予定でいますので今回もよろしくお付き合いください。

 あれから。

 迅と沙羅は、夜明けとともに出立した。

 沙羅たちが一晩夜を明かした場所は荒野のどことも知れない場所で、そのまま留まるには獣など危険も大きい。それに、食料や飲水をどうするかの問題もあった。

 迅は沙羅の体調を心配したが、最終的には早急に近くの町に向かうのが良いと結論を出した。


 日が昇ると夏の終わりの太陽が照りつける。日差しは強く、ごくたまに秋を予感させる冷たさを含んだ風が吹くが、ほとんどはまだ夏の乾いた暑さを乗せた風が通り過ぎて行く。

 先を歩く迅の赤錆色の髪の毛が日に照らされ、赤みを増していた。

 お互いに無言だ。

 歩きやすい場所を迅が先導してくれるとはいえ、道なき道だ。迅に予備の草履を借りたが沙羅の足には大きく、また歩き慣れていないこともあり、息が上がる。沙羅の方に話す余裕はなかった。

 迅は時折振り返り、沙羅がついてきているか確認してくれていた。余裕が伺える表情だが、沙羅に話しかけても今は答えることができないことは明白で、だから迅も無言だ。

 しばらく歩くと街道に出た。

 迅は迷うことなく進路を西に取り、街道を進んでいく。


 街道の途中、獣が嫌う匂いを発する低木に囲まれた広場に通りがかった。慶黄国周辺では、旅人のために町と町との間隔が広い場所にこのようなちょっとした広場が作られているらしい。ここには果樹も生えており、休息をとることにした。

 岩の間から清水も湧き出ており、喉を潤すとようやく少し話す余裕が出てきた。


「私たちは、どこへ向かっているのですか?」

「北に高い山々があるだろ。あの一番高く尖った峰があの位置に見えるってことは、もうすこし西に行くと町に着くはずなんだ。そこを目指している」

「山の位置からわかるものなのですか?」

「この辺は一度通ったからな。大体の位置が予想できれば割とわかるぞ。それに、街道にも出たし、間違いないだろう」

「すごいのですね」


 迅は事も無げに言ってのけるが、沙羅にはそのようなことできる気がしない。


「船乗りなんかは道なんかない海の上で星を読んで進路を取ると聞くし、これくらいは慣れれば誰でもできるようになるさ。いずれ沙羅にも教えるよ」


 そうして一時の休息を挟み、また街道を進んだ。



  *  *  *



 迅の言葉通り、午後に差し掛かる前には、交易で栄える町に着いた。

 休憩を挟みながらの道行きだったため、時間にして実質二刻ほどしか歩いていないのだが、それだけでも沙羅は疲れ果ててしまった。

 今までは歩くと言ってもせいぜい山の宮の中を動き回るくらいで、外出は輿や牛車に乗ってのことだったし、そもそも外出する機会もない。

 今日はこの町で休むのだろうか。


 町の建物は日干しレンガでできており、全体的に周囲と同じ砂色だが、交易で栄えているだけあり、集まった商人たちの露店が様々な色を添えている。


 沙羅たちは宿が集まる地区を目指しているので眺めるだけだが、見慣れない果物や、野菜、瑞東国の絹織物や木で出来た装飾品、北方の国からの毛皮など、様々な品が並び、商人たちの呼び込みの声も賑やかで、時間に余裕があるならば近くへ寄ってゆっくり見てみたい。

 道すがら、迅は屋台で二人分の昼食を購入し、ついでに町の名などを聞いている。

 町の名は彫乾ちょうかんという名で、やはり既に瑞東国を出ていたようだ。

 ここは、北の国と瑞東国、慶黄国を繋ぐ街道が交差する場所らしい。

 桜火はどこまで考えて迅と沙羅をあの場所へと運んだのだろうか。

 疑問は残るが、今はそれよりもお腹が減っており、迅が購入した肉の串焼きや、窯焼きの丸い麺麭ぱんが気になる。


「それは、何のお肉?」


 この町に入る前に、話しかける際に言葉を崩すように言われていたため、注意しながら話しかける。

 交易の要所であり、様々な国のものが集まっているため、瑞東国の公用語を使っていてもおかしくないのはありがたかった。

 沙羅も教養の一環として、慶黄国や大陸で主に使われている共通語も習ってはいるが、話す機会がほとんどなかったために、公用語を話すのは得意ではないのだ。


「羊かな? 食ったことはあるか?」

「いいえ」


 宮では肉類が出ることはほとんどなく、稀に魚が出るくらいだった。

 あとは豆や山菜、野菜を使った料理ばかりだ。

 宮に住むにあたり特に制限があったわけではないのだが、都は遠いし、狩人が常駐しているわけでもないので、肉などを手に入れる機会が少なかった。


「そうか。少し癖はあるが、うまいぞ」


 破顔する迅に、沙羅も食べるのが楽しみだ。


「お、あれも買っていくか。赤瓜というんだが、あれは俺も好きなんだ」


 瓜のような形はしているが、半分に割られた果肉が赤い果物を迅が指さす。

 沙羅は食べたことがないため頷いた。

 一通り昼食を買い漁り、屋台街のそばに設置されている長椅子に移動し、昼食にする。

 同じようにしている旅人らしき風情の人や、地元の人も多い。

 羊の肉は、思っていたよりも臭みがなく、甘辛い味付けで美味しかった。

 迅が気を使ってくれたのか、串焼きや麺麭ぱんなど、屋台食など初めての沙羅でも食べやすいものが多い。

 だが、一つだけ、食べ方がわからず残っているものがある。

 迅が選んでいた赤瓜だ。

 どう食そうか悩んでいたら、迅がにやついている。


「これは、こうやって食べるんだ」


 懐から取り出したナイフで、半分の赤瓜をさらに半月に切りすすめ、円錐形すると迅はそのままかじりつく。

 そのうえ、目を丸くする沙羅に「やってみろよ」などと勧めてくる。

 ためらい、周りの人を見てみるが、残念ながら赤瓜を食べているものはいない。仕方なく、一口、小さくかじる。


「おいしい」


 思った以上に水分が多く、体に染み入るようだ。


「ただ水を飲むより、これをかじった方が喉の乾きも癒えるだろ?」

「はい」


 頷く沙羅に迅も嬉し気に見える。

 迅は口の周りが汚れるのを気にせず、大口でかぶりつき、さっさと食べ終えてしまった。

 沙羅は小さく口を開けてゆっくり食べ進める。迅を待たせるのは気が引けるが、それ以上は難しい。


「ゆっくり食べてていいぞ。今日はあとは、宿を探して休むだけだ」


 その言葉にほっとする。

 昼食を終えたことで、朝から歩いてきた疲れを強く感じていた。足も痛くなってきており、眠気も感じる。

 時間はかかったが、沙羅が食べ終えると、宿を探しに席を立った。



  *  *  *



「気になるなら部屋を分けるが、この辺は物騒だ。同室の方が良いのだが、それでいいか?」


 宿が集まる区画に向かいながら言われる。

 少し考えてから、頷いた。

 同室を好ましいとは思わないが、部屋を分けて、何かあるほうが怖い。

 いくつか宿を見て回り、それなりに高い宿を迅は選んだようだ。

 部屋の床などは少し砂でざらついた感じはするが、この町に入ってからも乾いた埃っぽい風が吹いており、ここまで綺麗ならば十分だろう。

 部屋には寝台が二組の他、椅子二脚と机が一台置かれている。

 だが風呂まではついていなかった。

 この町の水源は北の山脈から流れてくる地下水に頼った井戸なのだそうで、風呂が常設された高級宿は二件しかないらしい。

 その代わり、有料だが、たらいに水を貰ってくれたので、それで体を拭く。

 汗やほこりなどを落とすと、ほっとした。

 迅はその間、扉の外で控えてくれていたようだ。

 気を使わせてしまっているのは申し訳なく思うが、気遣ってくれることは素直に嬉しい。


「終わりました。迅、ありがとう」

「別に、たいしたことじゃないだろ。気にしなくていい」

「迅はどうするのですか?」

「俺はあとで井戸水でも被るよ」


 そのようなこと、思いつきもしなかった。

 真似をしたいとは思わないが、部屋のたらいで体を拭くより気持ちよさそうだ。


「とりあえず、疲れたろ? 俺はこちらで剣の手入れでもしてるから、休んでていいぞ」

「わかりました」


 そう言われるも、迅と同じ空間で休めるだろうか。

 寝台に横たわる気にはなれず、部屋に置かれている椅子に座り、迅の手仕事をぼんやりと眺める。

 一定の速度で研がれる音が眠気を誘い、いつの間にか眠ってしまっていた。

次回6/28予定。

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