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3. 志保ちゃん上陸

 


 某幼稚園にて、スウこと晴海(はるみ) (すみ)は友達の堺 志保とお絵かきを楽しんでいた。


「シホちゃんなにかいてるの〜?」

 スウが尋ねると


「えへへ〜シホとケンくんのけっこんしきだよ」

 志保の画用紙には黒い服を着た男の子と白いドレスを着た女の子が書かれている。


「え、シホちゃんケンくんとけっこんするの?」

「そうだよー。シホ、ケンくんだいすきだもん。スウちゃんはなにかいてるの?」


「スウのはイチくんだよ。スウもイチくんだいすきなんだ〜」

 と、照れ臭そうに頬を両手で抑えた。


「イチくんってよくスウちゃんちにあそびにくるひとだよね?スウちゃんとイチくんはけっこんしちゃダメなんだよ」

 突然の発言にスウは目を白黒させている。


「イチくんこうこうせいなんでしょ?それスウちゃんのおねえちゃんの()()()だよ。」

 志保は断言した。


「カレシ……でもイチくんはおうちでは、ずっとスウとあそんでるよ?」


「シホもおねえちゃんのカレシとよくあそぶよ。おねえちゃんのものとっちゃダメだからほかのひとにしなよ」


「おねえちゃんのとったらスウわるいこかな……」


 スウはひっそりと呟いた。





 前回のあらすじ


 お義姉さん(あかり)との関係が改善された。



 今日も元気にスウの家に遊びに来た俺を衝撃的な発言が襲った。


「スウ、マキちゃんせんせいとけっこんする」


 俺の気持ちを露知らず淡々とスウは言った。


「マキちゃんって誰だ!? おい(あかり)! おまえ知ってるか!?」


「知らないわよ」

 明は心底面倒くさそうに俺を見ながら言った

 。


「牧ちゃん先生か〜。スウは面食いね〜」

 静流さんは楽しそうだ。

「牧尾って名前なんだけどみんなからは牧ちゃん先生の愛称で親しまれているわ!」

 静流さん、解説ありがとうございます。



 まさかこんなに早くライバルが出現すると思っていなかった。だが、前世のときも幾多のライバル達を蹴落とし彼女の隣を勝ち取った俺はこんなことでは慌てないのだ。牧ちゃん先生との結婚がありなら俺だってありだろ。


「なあスウ、俺とは結婚してくれないのか?」

 戯けた調子で聞いてみる。





「スウ、イチくんとはけっこんしないよ」



 俺は崖から突き落とされて更に上から岩石を投げ落とされた気分になった。明と静流さんの哀れみを込めた視線が痛い。



「あ、そういえば明日は志保ちゃんが遊びに来るのよね〜!どんなおやつを用意しようかしら〜」


 あからさまに落ち込んでいる俺に気を使ってか静流さんが話を変えてくれたが俺はその日一日ヘコみっぱなしだった。




 翌る日、俺がマンションに帰って来るとちょうどスウと静流さんも帰ってきたところだった。


「イチくん、おかえりなさい!」

「あら、(はじめ)くんおかえりなさい」


「ただいまです……と、君は初めましてだよね」

 2人と共にいる少女に向かう。


「はじめまして。サカイ シホです」

 堂々と彼女は言う。年の割にしっかりした子のようだ。


「はじめまして。スウのお隣に住んでる久世一です」

 第一印象が大事なのでにこやかに言う。


「ねえ、おにいちゃんはいつもスウちゃんとあそんでるんだよね。きょうはあそんでくれないの?」

 ジッと俺を見上げて来る。


「いや、今日は邪魔しちゃ悪いかなと思ったんだけど」

 困って静流さんの方を見ると


「一くんさえよかったら一緒に遊んであげてくれる?おやつは沢山用意してあるから」

 お言葉に甘えてお邪魔させてもらうことにした。



「志保ちゃんとスウはいつも何して遊んでるの?」

 俺が尋ねると


「おままごと!」

 と志保ちゃんが元気よく答える。


「きょうもおままごとするの!シホはママやるから!おにいちゃんはパパ!スウちゃんがあかちゃん!」


 勝手に配役が決まってしまった。スウはほんの少しだけ渋ったが志保ちゃんに押し負けた。



「あなた〜おかえりなさい〜!おふろにする?ごはんにする?それとも、わ・た・し?」

 どこで、そんな言葉覚えてくるんだか、志保ちゃんは定番のセリフを口にする。


「えーっと、ご、ごはんで」


「は〜い。どうぞ」

 何も載っていないおもちゃの皿を出された。俺は試されている。


「わ、わーこのハンバーグ美味しそうだなー」

 俺が言うと、

「それはスパゲッティなの!」

 と、怒られた。ひどい。


 食べるマネをしながら

「スパゲッティおいしいなー」

 と言うと、

「ちゃんとパクパクって言って食べて!」

 と、怒られた。理不尽だ。


「ばぶー」

 スウが慰めるように俺の肩をポンポンと叩いた。泣きたい。



「ママがおかたづけしてるあいだ、パパはあかちゃんをあやしていてくださ〜い」

 志保ちゃんママは後片付けまできっちりやる本格派らしい。


「ばぶー」

 俺のあぐらの上にスウが乗ってきた。甘えてくるスウはかなり可愛かった。ロリとあかちゃんプレイという恐ろしい言葉が頭を過ぎったが見て見ぬ振りをした。



「ただいまー」

 しばらく茶番を繰り広げていると明が帰ってきた。


「あ、スウちゃんのおねえちゃん!こんにちは!カレシかりてます!」

 志保ちゃんはちゃんと挨拶できて偉いなー……って彼氏?


「彼氏って……久世くんのこと?」

 明は困惑した表情で俺を見る。


「いやいや、俺はそんなこと一言も言ってないぞ!」

 誤解されては困るので慌てて弁明する。


「ってことはスウが言ったのか?」

 それはそれでよくない状況だ。


「……スウ、いってないよ。スウは、イチくんはスウとあそぶためにおウチくるんだとおもってたもん」

 心なしか落ち込み気味にスウが言う。


「シホのおねえちゃんがいってたの!こうこうせいのおにいちゃんがおウチくるのはおねえちゃんのカレシだからだって!」

 志保ちゃんが自信満々に言う。余計なことを言いやがって、恨むぜ志保ちゃんのお姉さん。


「志保ちゃん、それは間違っている。俺はスウのお姉ちゃんの彼氏ではない。スウの言う通り、スウと遊ぶためにこの家に来ているんだ」

 俺は誤解を解くために丁寧に説明した。



「じゃあ、おにいちゃんは()()()()なの?おねえちゃんがいってたよ。もし、カレシじゃなかったらそいつはロリコンだって……」

 なんてことを教えてるんだお姉さん!明を見ると笑うのを必死に堪えていてまったく助けになってくれそうもない。


「いや、ロリコンじゃなくて!ただのスウの友達なんだって!」

 今は、な。


 その後も必死に弁明した甲斐あって最後には()()()()()()ということで落ち着いた。

 そうこうしているうちに志保ちゃんのお母さん―見た目は完全にヤンママだが悪い人ではなさそう―が迎えに来て志保ちゃんは帰っていった。



「志保ちゃん、強烈だったな……」

 まるで台風みたいな子だったな。


「うん。だけどスウ、シホちゃんのことすきだよ」


「ああ、俺も」

 俺は苦笑しながら言った。色々誤解されていたが基本的に礼儀正しいしいい子なんだよな。


「でも、シホちゃんのおねえちゃんがまちがっててよかったな。」


「どう言うことだ?」


「イチくんがおねえちゃんのカレシじゃなくてスウのおともだちでよかったってことだよ。スウ、おねえちゃんのモノとったらわるいこになっちゃうから」


「よくわからないが、俺は明のモノじゃない」

 スウのモノだ、とは言わなかった。


 


「じゃあそろそろ帰りますね」

 俺は静流さん達に挨拶をしてお暇しようとした。するとスウが駆け寄って来て俺をしゃがませるとコソコソと耳打ちして来た。



「スウ、ホントのほんとうはイチくんとけっこんしたいんだよ」



 俺が驚いてスウを見ると、彼女はにっこりと笑ってバイバイと手を振った。



 俺は嬉しすぎてその晩一睡も出来なかった。





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