前世
俺は幼い頃に両親と離れ離れになり施設に預けられていた。同時期に同じ様な状況で施設に預けられた貴美子とはすぐに仲良くなった。
それから喧嘩もしたけど高校3年のときに付き合い出し施設を出てからは一緒に暮らしだした。
あれからもう6年、そろそろいいんじゃないかと思い計画を立てて早半年。今日、貴美子の誕生日に俺は一世一代の告白をする。
今日のために夜景の見える奮発したレストランの予約をした。給料3カ月分はいかないが貴美子に似合いそうなデザインの指輪も買った。花束だって用意した。
貴美子はベタなことをよくやりたがったからプロポーズもベタベタにしてやろうと決めていた。
「一生幸せにする。結婚しよう」
カッコよくビシッと決めてやろうと同じ台詞を何度も何度も頭の中で繰り返す。
「フミくん?準備できた?」
貴美子が顔を覗かせてくる 。
「ふふ、今日のフミくんイケイケだね」
と貴美子が笑う。
当たり前だ。慣れない美容室にも行ったしネクタイも新調した。
そう言う貴美子もよそ行き用のワンピースに身を包んでいる。
「ちょっと早いけど出ようか」
レストランからの夜景はそれは素晴らしいもので半年前から予約した甲斐があったものだった。貴美子もキラキラとした目で夜の街を見下ろしていた。
俺は手に汗を握りつつ次から次へと運ばれてくる食事を口にする。味覚が機能しなくなっているのか味がまったくわからなかった。ただ貴美子が美味しそうに食べていたので味は良かったのだろう。
デザートが運ばれてくるころには心臓の音がうるさくて仕方がなくなっていた。
ああ、この半年何回も考えていた台詞はなんだっけ?汗が止まらない。
「ご馳走様でした。美味しかったねフミくん」
貴美子が微笑む。
言うぞ。言わなきゃ。えーと台詞、台詞。
「あ、あの!貴美子!」
台詞!台詞!
「?」
貴美子はコテンと首を傾げた。
俺は貴美子の目をまっすぐに見つめ言った。
「貴美子、あの、俺と結婚した下しゃい」
噛んだ。
カッコ悪い。
こんなに準備してきたのに全然上手くできなかった。ロマンチックなプロポーズをして貴美子を喜ばせたかったのに……。
「フミくん……」
「ありがとう……こんな私でよかったら一緒に幸せになろう?」
貴美子は目に涙をいっぱい溜めながら笑ってそう言った。
ああ好きだなあ。
ずっと一緒にいよう。
そんな気持ちでいっぱいになった。
「あ、指輪、指輪があるんだ」
俺はベタにパカっと開こうとしてコレもまたもたついて貴美子に笑われた。
理想のカッコいいプロポーズは出来なかったけど貴美子が
「私、世界一幸せだよ」
そう言ってくれたから、俺にはそれだけで充分だった。
絶対に絶対に幸せにしてやろうって誓ったんだ。