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6 ログハウスにご対面

 自分の容姿に少々がっかりしたものの、お腹が膨れて満足したクリスは家を見ることにして、空地へと向かった。異空間に収納されているログハウスはガチャで当たったレアもののはず。


 だが、道沿いにあるお店に目がとまり自然と歩みが遅くなる。

 鍛冶屋とかがあったのも覚えているが、八百屋なんかもあったんだなぁとその商品に目が行く。さっきも通った道ではあるが、先ほどはチュートリアルだなんだと何気に緊張していたと思われる。果物などの食料品はヨーロッパの市場のようにばら売りされていて、売られる時には袋に入れられていた。


「朝入荷されたばかりのリンゴですよ~」


 可愛い声に思わず足を止める。良かった、果物の名前も地球と同じだと思いながら。

 足を止めてしまったからか、声の持ち主の女の子が寄って来ておずおずと「お一つどうですか?」と聞いてくる。上目遣いの女の子が可愛すぎた。即決で買おうと決め大きく頷くと女の子が花が咲くように笑ったので、つられて笑顔になる。

 ただ、甘さがどれくらいなのか分からないし倹約の為に、沢山は買わない。ここは賢く行くべき、と可愛さに負けないようにと鼻息も荒いクリス。近くにあった果物も一緒にお願いする。


「では、リンゴと洋ナシ、柿、レモンを三つずつ貰おうかな。あ、これはピオーネ?」


 少量だけ箱入りで置いてある巨峰より大きなブドウを見て尋ねた。クリスの大好物だ。少々お高いだろうとは思ったが、秋の果物ばかりが並んでいるので輸入品で季節ものかもしれないと思ったのだ。


「うん、……はい! ピオーネは一箱で千キリに…おなりです~」


 ニコニコと説明してくれる。なります、と言いたかったのだろうなぁと思いながら吹き出すのを我慢して一緒に買うことを伝える。……大好物を前に倹約という賢さからは少々外れるクリス。いつものことである。


「ありがとうございます! 会計お願いです~」


 隣の奥に向かって少女が言うと、ふとっちょのおばちゃんが計算してくれた。隣は野菜が積まれていたので、野菜も一緒に買った。野菜も買ったのに合計二千キリだったから、半分を占めるピオーネは当分買えないなぁとさすがにがっくりと首を落とした。



 鍛冶屋の一角に生活用品の鉄のフライパンを見て買おうかと思ったが、大きい上に重すぎた。包丁などは切れ味も良さそうで、十回の研ぎサービスがあると聞いて購入決定する。無料サービスに弱いのだ。


「冒険者なのに生活用品ばかり見るんだな」


 おっちゃんの言葉に冒険者としての買い物がまだだなと気づかされ、投げナイフがあるか聞くと当たり前だと呆れられた。投影スキルがあったから、安い物を五本買う。鍛冶屋でも二千キリ支払い、それでもまだまだ購入しないといけない物が多く、所持金は少なくなりつつあることに、土地を借りるのは早まったかなと考えが及ぶ。


 宿なら食事が付くのだから食器はもちろん、布団なども揃える必要はないが、ログハウスだと自前の宿はあっても、細々したものがないという現実に気づいてしまった。つまりは所持金がないのに、揃えるもので足が出そうだということ。……もう土地も借りたし、気づくのが遅かった。

 当分はあるもので済ませて、明日から依頼を頑張ろう。

 悩んだのは数秒。すぐに何の冒険があるかなぁと思い始めるクリスは超が付く楽天家だった。


 とりあえず、物を買うより先に家を見た方がいいなと思う。

 ゲームだから生活できていたのかもしれないが、物価対比かなり値段の張るログハウスだし、色々付いているのがあればいいなと、希望的観測に至ったのだ。



 てけてけと歩いて借りた土地に到着する。

 ゲームの時と同じでちゃんと小さな柵が隣との境界線を主張していた。

 畑の隣ということで、雑草の心配をしていたけれど、ちゃんと管理されていたらしく、奇麗にならされている。

 ただ、北側にはパン工場だったりと三方を囲まれていて、細い路地から入った余りの土地という感じは否めないな、と現地に立ってみて思う。それでも、クリスからしたら借りた土地は十分な広さがあった。南側には少しの畑が広がり、その先に小川が流れる。


 クリスは早速ログハウスを出した。

 日当たりの良い南側に畑を出したいなと思っていたのが反映されたのか、ちゃんと畑は南側に出ている。

 それも、一目で耕された畑だと分かる。

 野菜作りなんて学校で観察日記などのための理科や夏休みの宿題で習ったくらいだ。育てられるだろうか、と心配になるも、畑隣に蔵らしきものが目に入る。

 あぁ、倉庫があったなと思い出し、引き戸をあけて中を見るとそこには銅製のクワなどが壁に揃っていた。網や釣り道具も揃っているのには笑ったけれど、小川が近くにあったことを思い出し、魚肉の確保もできるなと笑顔になる。……ちなみに釣りの経験はないがそこまでは頭が働いてない。


 吊り棚に木箱があり、中を覗くと種が入っていた。

 トマトやキュウリと言ったゲームで育てた種が三つずつ和紙のようなものに包まれている。トマトとキュウリの種を一つずつだけ取って外に出た。


「ただ蒔けばいい…のかな?」


 黄プリゲームでは家の土地を借りさせたりと言った、面倒な手続きがあったり、種まきも出来たりした。というか、やらないといけなかった。乙女げーなのに、どこに力を入れてるんだって思っていたけれど、それらがあったから楽にここまで進んでいると思えば感謝かもしれない。


 少し悩んだ後、土に指で二つの穴を開けると種を投入し土を盛った。

 水は家の中だろうかと、可愛らしい家に目を向ける。南側はテラス付きで全開口ガラス戸になっている。玄関もあるが、テラスから中に入ると、広々とした吹き抜けのリビングになっていた。その奥にシステムキッチンと水回りも完備されていて、乾燥機付きのエアー洗濯機や冷蔵庫は壁と一体型。オーブンはもちろん、食器洗浄乾燥機、ディスポザーなども付いていてどこのショールームだ、と思われるようなアイルランド型キッチン。エアー型なので、洗剤が要らないのはお金の面でも助かる。水もちゃんと流れるし、下水の先を見ると切れているからどこかへ転送される仕組みなのだと分かる。


 最新設備なのにファンタジーだ。


 キッチンには家電が一通り付いていて、炊飯器はないのに長兄お気に入りサイフォン式コーヒーメーカーがあったのにはさすがに笑った。

 もちろんコーヒー豆と言った食料品関係はないし、調理道具などはないのだが、なぜかピクニック道具一式の中にダッチオーブンがあったから、鍋代わりとしてお米も炊けるし調理もできる。お米があればだが、ありそうな気がする。

 バケットナイフしかなかったので、包丁は買って正解だったと思った。万能鍋だと言っても、一つしかないからゆくゆくは買いそろえないといけないだろうが、お金を稼ぐまではこれ一つでいいやと思う。食器もないが、ピクニック弁当箱を代用すればいい。


 他にも十畳以上はある部屋にウィークインクローゼットはそれだけでも一部屋ありそうな大きさ。家具も付いていて、収納すればいいだけになっている。

 部屋には壁にあるリモコンやパネルを見る限り床暖房にエアコン、空気清浄などの設備も付いている。おまけに、全自動で動くようだ。動力元は家の屋上にある太陽光発電パネルなのだろう。


「パネェ……」


 絶句するが、電化製品だけでなく、壁収納型のベッドにはちゃんとマットも付いていた。兄たちがこだわって使っているスプリングのマットぽい高級感がある。さすがに布団はないものの、常春だから先ずはシーツだけ買えばいいかと思う。

 窓には自動ブラインドも設置されてあった。

 外から見た大きさとの違いに首を傾げつつも、先に二階を探索しに階段を上がる。地下にも続く北階段があったが、先に二階。

 二階は一部屋だけだったが、これも十分な広さがあった。二十畳はある広さに一階の部屋と同じような設備付き。それに、スタンド付きの大きなデスクと椅子まである。


 とととっと早足で階段を駆け下りると玄関から外に出た。

 ぐるっと家の周りを廻り、クリスが口にしたのは「外見より中の方がすっごく広い?」だった。

 ゲームでは気づかなかったが、外見よりも中の方が広いマジックハウスになっていた。こじんまりとした見た目に反して、中は広々としていたのだった。

 唖然とするものの、ここはゲームの世界だと自分を説得する。


 だが、ちっこい畑に植えたトマトに水をあげることを思い出し、ピクニック道具の中にあった魔法瓶の蓋カップに水を入れて畑へ行き、植えた物の光景に目を見開き、再度唖然とするのは、ほんの先の未来。

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