5 最初の攻略者 VS 主人公
亀ですみません。
感想やぶくま、ありがとうございます<(_ _)>
なるべく明日も一つ上げます~
早くも攻略者にエンカウントしてしまったことであたふたするクリス。
「珍しいね、一人とは。ミルクシチューだね。すぐに出せるよ、ジョセフ」
名前思い出した。ジョセフだ! ……クリスがガッツポーズをしているが、思い出したのはもちろん、レイアおばさんの言葉のお陰でしかない。
ジョセフはカウンターに来るとおばさんにお代を渡して、二つ離れた席に腰を下ろした。どうやら、ここは前払いだったらしい。急いで400キリを出した。お金を渡しながらも目はジョセフを追ってしまう。
短く刈りあげた赤茶色の髪に茶色の瞳。色合いだけを取るなら目立つところはないが、すっと伸びた背筋に長い脚、がっしりした肩幅に骨ばった剣を持つ手、そんな男臭さを消すのは整った甘いマスク。
「……初めまして、かな? 君は冒険者?」
「あ、うん。初めまして。よろしく」
手元の認識票になっているバングルを見ながら尋ねるジョセフにクリスはこくりと頷づく。ギルドではカードだけでなく、認識票かつ魔物収納バングルを渡された。カードは銀行カードの役割もしているから財布代わり。バングルは刈った魔物の収納カバン代わりだ。Fだから大物なら一匹しか入らないし、異空間収納のスキルは持っているけれど、買い物にも使えると喜んだ。
じぃぃっとガン見していたクリスにも、にこにこと声をかけるジョセフに、そういえば、人当たりのいいイケメンだったよなと最初に出てくるに相応しいキャラの彼にぺこりと頭を下げた。
下げてから「あ、ここは日本じゃないや」と思ったが、不思議な顔はされなかった。海外旅行に行って頭を下げるとおおって感じで見られたりしたものだが、日本製ゲームの世界だからだろうか、握手を求められることもないようだしホッとする。
ハッピーエンドなら彼は実は領主の嫡男、次期当主という設定になる人物。ダンジョンもある領地を治める上で勉強のため、冒険者まがいのこと――トレジャーハンターをしていたはず。領主の嫁、だから彼を選ぶと厳密にはプリンセスにはなれないけど。
ジョセフには声優もいたはずだが、ボイス機能を使わなかったから、どんな声だったか知らない。だが、この声なら聞いとけば良かったと思うほどのイケメンボイスだ。この店内の顔面偏差値も一人でぐぐぐっと上げてくれている。
それにしても、と思う。ジョセフでこのイケメン度なら美貌の王子とか言われていた面々はどれ程のものかと。
「この町で冒険者になったの?」
赤銅色のバングルを見て見習いと分かったのだろう。ジョセフはクリスに微笑みながら尋ねる。
「……うん。わた…僕、まだ駆け出しで。お兄さんは? 冒険者?」
クリスは私と言おうとして、冒険者姿だったことを思い出し念のため僕に変えた。トレジャーハンターは冒険者のCクラス以上に該当していたはずだが、遺跡やダンジョンなど場所も冒険者と被るしなと、違いがよく分からないクリス。
「正確には少し違うけど、まぁ、そんなものだよ。草原とその傍の遺跡は弱い魔物やお宝もないけど、数時間駈けたらまだ3層までしか攻略されていないダンジョンがあるんだ」
「目当ては最初に沢山出ると言うお宝?」
「正解。……ただね、偵察の斥候が事情があって抜けてしまったから、ここ数日困っていてね。君が地図と言った斥候系のスキルを持っていたら、僕のパーティにどうかな?」
クリスは目を丸くしてブルブル首を振る。
実はこのパーティに誘われるというのは、最初の選択肢関門である。受けたらジョセフルートが始まる。だから、断るのがクリス的には正しい。それにしても、ゲームなら気にならなかった誘いも、唐突過ぎて変な感じだ。もちろん、ジョセフはトレジャーハンターだと言わなかったから、Cランク以上と言うのも分からない流れではある。すでにAランクに近いと知ってはいるが……。だからこそ、BランクがFランクを誘うのは普通にないよな、と思った。
「ご覧の通り僕は見習いだよ!? 今日登録したばかりでゴブリンを倒せるか試してみないといけないくらいなんだ。手伝えなくてごめんなさい」
また頭を下げるクリス。
ゴブリンにすでに遭遇して倒せたとはいえ、あれはまぐれのようなもの。
あんな倒し方じゃぁ、兄たちに知られたら笑われるに決まってる。リベンジは絶対する、と決めているのだ。だからと言ってまだ自分はレベルは1だと分かってもいる。チート能力が無いことも、知識無双もできなそうだと知ったけど、だからこそこつこつ頑張ろうと、思った矢先の攻略者とのエンカウント。
あんまりのイケメンさに思わずくらっとパーティ仲間になるのをオッケーしたい気持ちもゼロではなかったし、その方が断然生きて行くのは楽で良さそう。でも、攻略はまだ考えないと乙女げーだと知ったときに思ってしまった。
「うん、まぁ、僕も急に誘ってしまって驚かせてしまったようだね。3層までとはいえ、成人してないのなら、徐々にランクは上げた方がいいよね」
成人してない?
この国ではすでに成人している年なんだけど、日本人だから若く見えるとか? そう思って、アバターキャラはこの世界の住人仕立てだったと思い出し首を傾げたのだが。
ちりり~ん
「ジョセフぅ~、もう待ってって言ったのにぃ」
急に入ってきた香水の匂いをぷんぷんまき散らしている女性が入って来て、ジョセフにくっ付く。
プリンの香りが消えてしまい、代わりの香水の香りに食欲がいきなり消えたことにがっかりしつつも、クリスは最後の一口を目を瞑って味わうと、スプーンを置いた。
お隣のイケメンさんは当たり前にモテモテのようだ。ただ、聞こえて来ていた会話からは少し面倒くさそう? 単に食事にあの香水は頂けないから、かもしれないけど。
「美味しかったです。また来ます」
パイの乗ったトレーを持ってカウンター側でなく店側から配膳しているおばさんにお礼をいい、ジョセフにはご愁傷さま、そう心の中で思いながら席を立つ。
女性はおばさんから「破廉恥な姿に、臭すぎて食事し難いだろう? 出てった、出てった」と背中を押され、ちょうど扉を開けて出ようとした私のせいで、彼女まで一緒に出されていた。あぁ、だからカウンターの中から配膳しなかったのね、と思い当たる。のだけど――
……ええっと、睨まれてるんですけど、出されたのって私のせい?
女性は上から下まで見定めると、ふんっと笑って踵を返し腰をフリフリ歩いて行った。
うん、まぁ、いいんですけどね。ただの見習いの恰好ですからね。一目でいい装備と分かるいで立ちのイケメン男を見た後なら、誰でもパッとしないように感じるだろう。それに、私は女だしね。いくら美人さんに馬鹿にされた目線を送られたとしても、そこまでがっかりはしないのよ、とない胸をせいいっぱい涙目で張るクリス。
クリスも女性冒険者の姿がどんななのか興味津々で見ていたし、実はお互いさまとも言えた。女性のいで立ちはクリスが思うより、露出が少なかったのだ。膝上のスカート自体、冒険者としてどうなの? とは思っても、ゲームにあったのはビキニアーマーばかりだったから、はて? と。おばちゃんは破廉恥って言ってた気がしたが、ゲームの装備に比べたら全然許容範囲だ。
ただ、もし彼女もパーティ仲間だとしたら、やっぱり受けなくて良かったかもと苦笑いが出るのだった。
そして、鏡を見るのを忘れたクリスが己の姿見たさでトイレを借りにシチュー屋へ再入店し、自分の姿にがっかりするまで後三十秒――。
ただし、それは超イケメンジョセフに会った後だったからであって、この世界でクリスの容姿はどちらかと言うと整っている方に属していたし、ぽっちゃりとしたほっぺは成人前のような幼さを残していた。主人公のアバターキャラ設定には基本この世界の住人から好まれるスタイルしかないことまでは考え至らず、まさに自分がゲームでは主人公であったことをど忘れしているクリスは通常運転ナウ。