プロローグ
見切り発車してしまいます。
超不定期の予定……なぜならやること山積だから(;゜Д゜)
「ぎゃぁああああああ!!!」
中性的な顔立ちの冒険者風の若者が魔物を目の前にして、悲鳴を上げていた。
冒険者にしては奇麗な顔立ちだが、その顔を恐怖に引き攣らせ、尻もちをつき、ずるずると後退している姿はどんな凶悪な魔物に出会ったんだという体。だが、対峙する相手は小さなゴブリン……。
冒険者のいで立ちは仮の姿なのか、と疑う程の醜態。
なぜなら、この世界でゴブリンと言えばレベル1~3にしかならない魔物だ。実際に冒険者の前にいるゴブリンはレベル1で、かつ身長も1m程。幼稚園児並みの身長だから、少年少女たちだって、ゴブリンを退治している。それも集団を組むことの多いゴブリンだが、何故か一匹のみ。冒険者も一人ではあるが……。
細いこん棒よりも、冒険者の横に落ちている剣の方がよっぽどいい武器なのも一目瞭然。
それにもかかわらず冒険者は「ち、近寄るなっ!」と叫びながらずりずりと後退しようとしている。切れ味のよさそうな剣で一振りすれば良さそうなものを、怯え切った目には剣すら映ってないのだろう――
ゴブリンは元々の醜悪な顔にニタリとした笑みを浮かべながら、冒険者に近づく。口元には涎が垂れてはいるが、これは元からいろいろと垂れ流していたから、獲物を前に垂れたというより、締まりがないだけだろう。
一人恐怖にもがく冒険者は手の中にあった草を引き抜いてゴブリンに投げつける。
草だから何のダメージも負わせることなく――どころか、重さのないそれはゴブリンの足元にも届いてはいなかった。
だが、何かしたこと――ここでは草を投げたことが冒険者に攻撃の意思を促したのか、狂ったように次から次へと投げてはいた。……草だったが。
草でも最初は届かなかった距離が足元に届くのを見て、さらに加速して投げる冒険者。それはゴブリンが自ら近寄って来ていたからにすぎないのだが、草が届くことにしか気づかない程焦っていたし、それはほんの数秒内の出来事。
ゴブリンが冒険者の足元に立った。
こん棒が冒険者の足めがけて振り下ろされようとしたその時、小石を手に掴めたのは冒険者にとっての幸運だったのか、草と石ばかりの原っぱでは当然のことだったのか。
「がぁあああ…んがっ! がっがっんごっ……」
小石は本当に幸運の象徴だったらしい。
雄たけびを上げていたゴブリンの口の中に吸い込まれるように入った石は、喉をふさいだ。何やら色々と垂れ流していたゴブリンは鼻水も当然垂れ流していたわけで、呼吸困難で白目を剥く。
程なくしてその息を止めたゴブリンは倒れた。
その前には呆然とまだ恐怖に顔を歪めている冒険者のクリスが一人残っていた――。
***
何が起こったのだろう、とクリスこと地球名宮原聖は考えていた。
醜悪な物体を前にしばらく呆然としていたが、ピクリとも動かなくなったそれが死体となったのは理解できた。
「ゴブリン?」
いるはずのない生物の名前をクリスは口にする。
ゆっくりと周りを見渡し、そこでようやくクリスの目に剣が映る。
目前には草原と林、その奥には森が広がる。斜め後ろに城壁をクリスの視界が捉えた。城壁をよく見るとアンク模様のエジプト十字が目立つ建物が見える。
ゴブリンらしきものに、剣と城壁で囲まれた町らしきもの。
嫌な予感に、クリスは自身の姿を見下ろした。
厚手の生地の服に革の防具を身に着け、ミリタリーブーツと手にはタクティカルグローブ。
防具には彼女が知っている『乙女ゲーム』のマーク百合が入っていた。
ぱんぱかぱーん! 乙女げーだ。あのイケメン攻略ゲーム。
RPGとかの冒険ゲームではない、乙女ゲーム『黄百合のプリンセス』通称黄プリ。その黄プリの世界にいることを気づいたクリスは地球生まれの女子大生。
いわゆる、異世界転移したらしいと悟るクリス。それもゲームの世界に。女子大生が冒険者の恰好をして……。
どっから、誰に、突っ込んだらいいのでしょうか?
天を仰げど、答えがあるはずもなく、青天の空が晴れ渡っていた――。
乙女げーと一口に言っても、色々ではある。攻略者はイケメンたちのため、戦国武将だったり幕末と言った戦う漢達の物語もあったりする。だが、それでも乙女げーと謳っているのだから、恋愛事にまつわる攻略がメインのはずだ。だが、この黄プリは少し、いやかなりおかしいゲームではあった。マークはユリだが、全然ユリユリしい話は出てこない、くせにバトルはある。
一言でいうと、バトルゲームじゃね?って勘違いするレベルの乙女げー。
攻略ストーリーはあるにはあるが、寄り道の冒険が出来たりする。イケメンたちが物語の中で戦うのではなく、ゲームする側も成長システム付のバトルできるゲームになっていた。もちろんバトルばかりではない。イケメンスチルももらえるしバトルゲームをしなくても進めることは可能。だが、いかんせん乙女げーにしてはバトルゲーム要素多かった。多すぎた。
黄プリはバトルゲームだと専らの噂だったが、RPG風の乙女げーは聖の趣味にぴったりあった。
バトルゲームは好きなのだが、いかんせんとろ過ぎて付いていけれない。だが、乙女げーの中のバトルゲームは女子メインだからか、ちょうど彼女にあったゲームが黄プリだったのだ。
これでも、クリスは女子だから。
女子力は限りなく低いとは自他共に認める程ではあるが。
「はぁぁ。どうすっかなぁ」
くしゃっと短い髪をかく。
口にしたのは、あまり女子ぽくない言葉遣い。男兄弟の末に生まれたこともあり元々の口調もこんな感じなのだ。もちろん、TPOは考えるが。
今の姿は完璧男性冒険者スタイル。でも、性別としてはしっかりきっぱり女のはずだ。
選んだキャラなら、だが。
攻略者をおとす為の乙女げーだからなのかは分からないが、女性冒険者はビキニアーマーの種類だけは豊富だった。ミニスカ聖女服もあったがこれも製作者を疑うレベルでパンちら、いや丸見えにカスタマイズされていた。ビキニ姿が恥ずかしいなら、他の職業もあるのだから冒険者を選ばなければいいだけの話。だが、パン&料理屋町娘の二択しかなかったのだ。
しょうがないので、聖は冒険者の中の男装を選びゲームしていた。冒険者は後に選択で騎士にもなれるからか男装もオッケーだった。
長髪設定が多い中で、今のスタイルは亜麻色のふわっとした肩までの短髪にスレンダーな体系。つるぺたとも言うが、まぁ、それも自分で選んだのだから特に問題はない。日本人キャラじゃない分、実際には少しありそうだなと防具に隠れたわずかな胸囲を見下ろして思う。
自分の顔は見ることができないけれど、認識できる部分はゲームのキャラで間違いなさそうだ。
だとしたら、あの町に行くべきだろう。【始まりの町】カリスミラーへ――。