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Rescue the Princess:奪還作戦!

 目を覚ました時、辺りは真っ暗だった。

 唯一の光は天井近くにある小窓から月明かりが入ってくるだけ。服装は、高校のセーラー服のままで、手足は座っている椅子に後ろ手で縛られている。


「そうだ……私は!」


 叫んだ瞬間、目の前でうずくまりながら何やらぶつぶつ呟いているコートを着た男性を見つける。


「ど……よう、……し…き……たよ。ど……う、…………う、や…………た」


 ブルブルと震えながらぶつぶつと呟いている様は、異様なものであった。


「あの……もし」

「ヒイッ⁉」


 それでも埒を開けようとその男に声をかけると、おびえた小鹿のように肩を跳ねあがらせる。


「そちらのお方……?」


 〝常識〟を持っていれば自分が今目の前に拉致監禁されていると理解できるのだろうが、王女としての教養しか持ち合わせていないアリシアにはその思考回路が存在しない。

 自分の置かれた状況をイマイチ理解できていないアリシアに向かって、男は這いより、平伏する。


「ご、ごご、ごめんなさいごめんなさい、ああ、いや違う。俺が誘拐したんだ。大丈夫、俺が上に出ても大丈夫大丈夫」

「はい?」

「ひいっ⁉」


 男は、誘拐犯とは思えない臆病さを持っていた。


 × × ×


 天城イオリが帰宅した瞬間、何やら違和感に襲われる。が、その理由を部屋中を見回して探すが、なにもおかしいところは見つからない。


「……?」


 とりあえず気にしないことにして、コンビニで買ってきたカップ麺を開ける。


「…………。」


 湯を注いで、支給品のデジタル腕時計のタイマーをきっかり3分に設定する。いつも軍の食事だけであり、ひどい時はレーションでさえ高級品だったこともあって、カップ麺は初めてだった。

 無表情に見えるが、目を輝かせて(分かる者にはわかる)、自分にしては初めての好奇心を寄せていた。


(タイマーが鳴ったらフタを開けるのだな……マイクが言う分には最高のタイミングを逃せば、麺が伸びてしまうのだったな)


 慎重に、そのタイミングを逃さないために、腕時計の横に置いたカップ麺をじっと睨む。雨が降っても雪が降っても霰が降っても、雷雨になっても身動き一つ許されない偵察任務には慣れていたため、この程度はお茶の子さいさいといったことであった。


(しかし、なんだろうか。この、拭い去れない不安感は……)


 カップ麺の監視をしながらも、違和感の原因について考える。これは戦場での経験則だが、違和感や不信感といったものは僅かでも払拭しておかねば、後から災いとなって降りかかってくるのだ。


(机は問題なし、ベッドの下にはなにもなかった。その他調度品に異変はない……じゃあ、なんだ?)


 正体のつかめない違和感は、さながらニシキヘビのように体に巻き付いて気管を締め付けてくる。その息苦しさに抗いながら、顔をカップ麺に向けたまま、血走った眼球を部屋のあちこちへと向ける。


(隣の部屋から争っているような音もしない……音?)


 そう思いつくなり、いきなり立ち上がる。その拍子に、椅子が大きな音を立てて倒れたが、気にも留めずに赤外線遮断カーテンのかかった窓へと駆け寄り、いきなり開け放つ。

 肌寒い夜風が入り込み、カーテンが室内に雪崩れ込んできて顔に覆いかぶさる。そのカーテンを荒っぽく払いながら、ベランダに出て手すりに登って上階のベランダの手すりに飛びつく。


「っ……」


 軽く息を吐き出しながら、下半身を振った拍子で上階のベランダによじ登る。そして、カーテンの隙間から内部を覗くと、案の定電気はついておらず、物寂しい無人の部屋があるだけだった。

 それを確認して、またベランダを伝って自室に戻る。それから大股でパイプ机の上の無線通信機に向かって荒々しく受話器をもぎ取る。


「ファントム01、ファントム01!応答しろ!」

『なによぉ……こんな時間にぃ』


 受話器越しに、アデル曹長の酔いが混じった不満げな声が聞こえてくるが、それを無視する。


「緊急事態だ、目標が帰宅していない!」

『えぇ?あんたが尾行してたはずじゃないの?』


 アデルの、もっともな質問に言葉を詰まらせるが、この状況では隠し事は害悪である。処分覚悟で打ち明ける。


「それが、昨日目標に見つかって、尾行を禁じられた……」

『はぁあ?あんたなにドジふんでんのよ!』

「も、申し訳ありません……」


 事態を理解したアデルの怒鳴り声に、しゅんとなって謝罪する。


『仕方ないわ、手分けしましょう。ファントム01、02は指令室でドローンで捜索、03は町中を探し回って。04は防犯カメラの映像の確認』

「ファントム03、了解」


 了解を返すと、受話器から残り二人の隊員の了解が聞こえてくる。アデルは、すでに酔いから完全に醒めた様子で、きびきびと指示を出す。


『ファントム03、インカムを起動しっぱなしにしてなさい。逐次指示する』

「了解」


 通信機の横で充電していたインカムを引っ掴んで首元に装着する。そして、荒々しくドアを開けて外へと飛び出す。


「きゃっ⁉」


 廊下で買い物袋を両手に下げた女性とすれ違った瞬間、左半身を曲げて避けるが、女性は驚いて悲鳴を挙げ、勝手に買い物袋を落としてしまう。しかし、そんなものは無視して、急いで階段を駆け降りる。

 そして、肌寒い夜風が吹く暗い町中に出る。道の左右どちらにいくか迷い、とりあえず彼女の通学路をたどることにした。


「買い物をしているのか?」


 帰り道に不慣れな買い物をしていて時間を浪費しているのかと思い、歓楽街の通りの千鳥町駅を超えて、サミットに駆け込む。買い物袋を引っ提げた主婦やサラリーマンたちの悲鳴や迷惑そうな視線を無視して店内に駆け込んで、二階の野菜のコーナーから調味料、魚、乳製品や精肉のコーナーを見て回り、一階に駆け降りて総菜コーナーから清涼飲料水のコーナーまでを駆け回る。


「いない、か……」


 しかし、彼女は店内にはいなかった。今度はサービスコーナーへと駆け寄る。その様子を見た店員が、驚いて目を見開く。


「金髪の、イギリス人の少女を見ませんでしたか?年齢は16歳、身長は164センチメートル、都立多摩高校の制服を着ていたはずです」

「え、えっと……」


 口早にまくし立てると、女性の店員があからさまに慌てふためく。その様子に軽く舌打ちをしながらも、もう一度繰り返す。


「イギリス人の、金髪の少女です!」


 そう叫ぶと、その女性店員よりも年上の、恰幅のいい中年の女性店員が出てくる。彼女は、店内を駆け回り、女性店員に急いた様子でまくし立てる天城イオリを怪しみ、眉をひそめている。


「金髪の女子高校生ですよね? 30分ほど前に店内から出ていきましたけど……あなたは?」

「ご協力、ありがとうございます」

「あっ、コラ。待ちなさい!」


 その、中年女性店員が言い終わらない内に、店から駆け出す。話の腰を折られた中年女性店員が慌てて追いかけるが、軍人として行軍の訓練や突撃の訓練を受けた彼に、運動不足で三段腹を気にしている彼女が追い付けるはずもなく、あっという間に引き離していく。


「すみません、金髪のイギリス人の少女を見ませんでしたか?年は16歳で、身長は164センチメートルです」

「すみません、見てないですね……」

「そうですか、ありがとうございます」


 コンビニの外で清掃をしていたバイトは少しおどおどしながら否定し、居酒屋の前で客引きをしていた店員は彼女の住まうマンションの方へと向かっていったと話した。

 しかしながら、歓楽街の千鳥町はともかく、一歩内側に入った久が原は人通りの少ない住宅街であり、歓楽街の煌びやかな光を背に受けた一軒家かアパートしかない。当然、目撃者どころかすれ違う人間すらいなかった。


「ファントム01、ダメだ、目撃情報は23分前までしか辿れなかった」

『ファントム03、そのようね』

「……? 何か掴んだか?」


 アデルの声は妙に落ち着き払っている。


『ビンゴよ、丁度24分前にお姫様はグーで気絶させられて、パーキングの銀のハイエースに連れ込まれている』

「そのハイエースは⁉」

『今、捜索中。でも、こんなの町中にたくさんあってキリないわ。とりあえず、今カメラの録画を漁っているけど、ちょっと時間がかかると思う。そっちでも捜しといて』

「了解……」


 ハイエース、トヨタ製のバン。安価で頑丈、大容量で貨物車として重宝されている。ということは、犯人は宅配業者か、建設などの業者の可能性が高い。

 となると、配布された戦術マップの中でそのハイエースが向かった可能性の高い建物は、池上に点在する4つの廃工場の内の一つ。


「ファントム01、その車両に、他に特徴はないか?」

『ちょっと待って……マイク、そのハイエースに特徴無い?』


 アデルの背後で、二人が話し合う声が聞こえる。

 任務で護衛を命じられたが、こう簡単に誘拐されたとあっては、ファントム大隊の面目は真正面から殴りつぶされる。

 誘拐犯が、彼女に危害を加える前に無事に救出しなければならない。それが、自分に与えられた任務であり、目標に傷一つでも付けばそれは任務の失敗ということになる。

 そうすれば、自分は職を失い、英国王室の国外逃亡計画を知っている者の一人として、命を狙われかねない。


「任務以外で殺されるのは、御免だな……」


 軍人には失敗は許されない。将軍の肩には軍団の命が、将校の肩には部隊員の命が、先任士官の肩には分隊員チームメイトの命が、兵士の肩には目の前の戦友の命がかかっている。

 規模が小さくなっていっても、関りが濃密になっていくほど、その重みは上がってくる。だから、目の前の仲間の為に、国家の為に失敗は許されない。

 それを一番理解しているからこそ、今は焦燥感に駆られて、呼吸が浅くなっていた。それに気づいて、慌てて呼吸を正す。


「焦っている……」


 いつもの自分なら絶対にしない、冷静さを欠いていたことに、僅かな驚きを覚える。


『ファントム03、当該車両には側面と後部に三木原工業のロゴが入っている』

「ファントム03、了解」

『それと、当該車両は第二京浜国道の方に向かって、呑川の方に向かっていってる。分かってるところまで誘導するわ』


 アデルの話の途中で、オレンジ色の道路照明灯に照らされた第二京浜国道に向けて駆け出す。


『その交差点をまっすぐに、そしたら川まで突っ切って』


 赤になって中々変わらない、久が原と打って変わって交通量の多すぎる第二京浜国道の交差点の前で歯噛みしながら辺りを走る車両を苛立ちながら見送った。


 × × ×


「司令室、こちらファントム03。当該車両と思われる車両を発見。建物内部に人影を確認、コートを着た中年の男性と、椅子に縛られたイギリス人の女性。目標であることは間違いなし」

『司令室、了解』


 アデルの指示に従って進むと、呑川を下ったところにある廃工場にたどり着いた。そして廃工場の入り口で例の三木原工業のロゴの入った銀色のトヨタ・ハイエースが見つかった。

 そして今は、工場の外壁にあった階段を上って、採光窓から内部を覗いている。中年の男は苛立っている様子で、目標は縛られた状況の中、恐怖ですくみ上っていた。


「犯人は興奮している模様、現在、目標が説得しているものと思われる。発砲許可を」


 今現在、見て取れる情報から状況を推測する。そして、目の前の犯人の鎮圧に必要と判断し、発砲許可を要請する。

 が、アデルの返答は、自分を歯噛みさせるものであった。


『ファントム03、相手は民間人であり、武装のほども不明である。非武装の民間人を殺傷した場合、ハーグ陸戦条約に抵触する可能性がある。許可できない』

「……ファントム03、了解」


 民間人とはいえ、興奮した人間を相手取るには、軍人でも手間取る。アフガンに派遣されたことがあるからこそ、その人間の内に潜む悪魔の存在と、その厄介さが身に染みていた。


 × × ×


「そうだよ、俺は誘拐犯なんだ、俺がやったんだ、だから俺が何してもいいんだ……でも、やってしまったら終わりだ!」


 さっきから男は血走った様子で、ぶつぶつと呟きながらせわしなくうろうろとしている。その異様な様子に嫌悪感を覚え、肩をすくめる。この時、自分の肩を抱くための両腕が封じられたことが何よりも私自身を不安にさせた。


「誰か……助けて」

「アアッ⁉喋んなよ、お前は誘拐されたんだよ、俺に!だから、俺の言うことを聞けよ!……ヒッ、何やってんだよ、脅しちゃダメだろ、ケガさせちゃったら後戻りできないんだよ……」


 突然興奮して怒声を上げたと思ったら、また臆病に戻る。ヒステリックになった人間の恐ろしさは、危害を加えられたわけでないのに、恐怖を与えてくるところにある。


(怖い……誰か、助けて……)


「クソっ、誘拐した時点でもう後戻りできないんだよ!だから、もう、何やっても変わらないんだ!」


 男が怒声を上げ、自分の制服に手を伸ばしてくる。この先の展開を想像してしまって、恐怖から本能的に叫び声を上げる。


「いやっ、止めて‼だれか、誰か!助けて!イヤ、嫌、イヤァァアア‼‼」

「うるさい、黙れ!お前は、俺が誘拐したんだ!だから、俺がなにしても──」


 × × ×


 採光窓から監視して数分、興奮状態の男が目標に怒声と共に飛び掛かる。それを見た瞬間、インカムのマイクを起動し、アデルに状況を知らせる。


「男が手を出した!目標が暴行される!」

『こちら司令室、鎮圧の為の最小限の発砲を許可する。クソヤローをブチのめせ‼』

「ファントム03、了解ラージャ‼」


 Yシャツの背中に仕込んでいたサーブ・スーパーショーティーショットガンを取り出す。そして、目の前の廃工場のトタンの外壁に数発打ち込み、最後は蹴って穴を開ける。そして、腰のホルスターから単初にセレクターを回したG18Cオートマチックピストルを取り出して、爆音に驚いて腰を抜かしていた男の足元に向けて数発を撃ち込む。

 男がアリシアから離れたのを確認して、工場の中に飛び降りる。3メートルほどの高さがあったが、着地の瞬間に前転して衝撃を押し殺した。


「あ、天城さん!」


 そして、恐怖が顔に張り付いたままの彼女の下に走り寄り、素早くサバイバルナイフで後ろ手を縛っているロープを断ち切る。


「姫様、ここは危険です。私の後ろに」

「はい、はい!」


 立ち上がった瞬間、緊張が解けたせいか、彼女の体が崩れ落ちる。それを左手で受け止めて、地面に座らせると、男に向き直る。


「ま、待ってくれ、俺は、俺はまだ何もしていないんだ!」


 男は完全に腰を抜かしてしまい、地べたを這って後ずさりしながら、泣きわめいて命乞いをする。


「ヒッ⁉」


 だが、それを無視して、男の腰のすぐ脇を撃つ。撃発の爆音と、音速を超える銃弾の衝撃、着弾で弾かれたコンクリートが男を追い詰め、思考を凍らせていく。


「おい、貴様。この場で大人しく投降して警察に引き渡すか、この場で射殺するか、選ばせてやる」


 問いかけながら、拳銃のレーザーポインターを点け、男の胸を照準する。男がかすかな悲鳴を上げるのを見て、わざと革靴の音を高らかに鳴らしながら、ゆっくりと距離を詰めていく。

 一歩、一歩近づくごとに男は短い悲鳴を挙げ、胸の前で交差させた腕を強張らせる。

 そして、銃口を男の胸に突き付けたとき、また改めて問いかける。


「どっちか選べよ。俺は待たされるのが嫌いなんだ」

「い、許して、許してください⁉死ぬのは、死ぬのは嫌だ‼」

「許すか許さないかは、彼女と警察が決めることだ。俺は殺すか殺さないかしか決めない」

「い、ギヤァァァアアアアアアアアアア──‼⁉」


 最後に、頭の真横を撃つと、男は断末魔の叫びを挙げてそれきり動かなくなる。男の体を足の先でつついて、気絶したのを確認し、その両腕を後ろ手に縛り、コンクリートの床に転がす。


「ご無事ですか、姫様」

「え、ええ……なんとか」


 彼女は、ショックからの放心状態に陥り、力なく倒れていた。


「天城さん、怖かった、本当に怖かった!」


 しかし、どこにそんな力が残っていたのか、彼女はいきなり飛び起きて、自分の上半身に抱き着いてくる。いきなりの事に驚いたが、その両肩を支えて諭す。


「ええ、もう心配いりません。脅威は排除しました」

「あなたが、あなたが来てくれたから……」


 彼女の言葉に、一息ついて、肩の力を抜く。


「ええ、私はあなたの護衛ですから」

「ありがとう、本当に。感謝しています」

「分かりました、もうすぐで警察が来ます。あなたも、私も素性が知れてはいけません。ここから帰りましょう」


 そう言って、彼女を負ぶって立ち上がる。負傷者の救助は、まず負ぶって安全な場所に避難してから行う。そう、講習で叩き込まれていた。


 × × ×


「もう大丈夫です、一人で歩けます」


 そう言われて、アリシアを背中から地面に降ろす。すると、彼女は若干ふらつきながらも、しっかりと自分の足で立ち上がった。


「お強いんですね、あんなことがあった後では、一般人なら立ち上がれません」


 そう言うと、彼女は夜の星空を見上げて、遠い目をする。それは、ありし日々を思い出している時の、かつての戦友たちと同じ目をしていて、どこか儚げであった。


「ええ、約束しましたから」

「約束……?」


 問い返すと、彼女は星空を見上げたまま、微笑む。


「ええ、約束。あの子との約束です。この世で、一番大切な約束」

「羨ましいものですね、思うべき相手がいるなんて」

「え……?」


 ぽつりと漏らすと、星空を見ていた彼女がきょとんとした顔でこちらを振り向く。


「自分には、最初からいませんでしたから。アフガンの孤児院で育てられて、そこが戦場になって、義勇兵として政府軍に加わってから、今のところに転がってきましたから」

「そうですか……」


 それだけ呟いた彼女の顔は、なぜか暗く、落ち込んでいた。

 王女ともあろうお方が、そんな表情をしなければいけない理由が見つからず、首をかしげる。


「なぜ、そんな顔をなさるのですか?」

「……うん、そうですね。決めました」

「な、なにを?」


 質問に答えようとせず、急に顔を上げてテンションを上げた彼女の変化についていけず、狼狽えていまう。

 しかし彼女は、微笑んで、自分の目を見ながら言った。


「またこういうこともあるかもしれませんから、天城さんには護衛をお願いします。あ、でも、尾行はダメですよ?それは未来永劫禁止ですからね」


 底抜けに明るい表情になった彼女に困惑して、どう反応すればいいのか判断に詰まる。が、彼女はそのような自分の様子を無視しして、独り言を言うような、既に決定している前提で話を進める幼子のように続ける。


「でも、それだと登下校の護衛ができませんね。そうですね……天城さん、あなたはこれから登下校を一緒にしてください。フラットも一緒なんですし。それと、怪しまれないように今度からはアリシアと呼んでくださいね」

「は、は……?」


 意味が分からず、困惑していると、彼女は頬を膨らませてムッとした様子で言う。


「もう、返事は無いんですか?護衛をするには、これが最適でしょう?」

「は、はい。了解、致しました……」

「よろしい」


 そう返すと、彼女は満足げに微笑んだ。


「それでは、明日からお願いしますね」


 アフガンで見たものとは街の明かりが強すぎてほど遠い。

 だけれども、星が綺麗だった。

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