転校生と留学生(前半)
東京都大田区久が原にあるマンションの一室、そこが天城イオリに与えられた〝拠点〟である。
元々ないに等しい荷物を、置かれていたベッドに放り投げ、簡素なパイプ机の上に設置された通信機器と、置かれていたPCに入っていたPDFファイルに目を通す。輸送機の中で読んだ作戦指示書には書いていなかった今後の詳細、街の概要、バックアップ体制、偽装の為に通うことになる高校の校則、後から送られてくる装備の詳細、定期的なレポートのテンプレート等々。
その時、玄関のチャイムが鳴る。
「はい、天城です」
『王立運輸です』
「どうぞ」
スイッチを押して、マンションの玄関の自動ドアを開けて配達業者を中に入れる。
それから少しして、またチャイムが鳴る。部屋の玄関の扉を開けると、巨大な段ボール箱をカートに載せた配達員が立っていた。
「マイク……⁉」
そこに立っていたのは、見知った顔のファントム11。マイク・ジョンソンの姿を見て、思わず声を上げそうになるのをマイクが手で制する。
「お届け物です、はいこれにサインを」
マイクは流ちょうな日本語で言いながら、演技を続ける。渡されたクリップボードには、軍からの配達物に使われる伝票が貼ってあった。
「はい、どうぞ」
「かなり重いんで、中入れるの手伝ってもらえますか?」
「ああ、は、はい」
マイクと二人で段ボール箱を持って部屋の中に入れる。
「以上です。では、これで」
そう言って、マイクは部屋から出ていく。俺は、手の中に握っていたメモ用紙を開く。先ほど渡されたクリップボードに挟まれていた。
そこには、バックアップ体制として、マイク含む3名が近隣のアパートで待機しているとのことであった。
「フッ──」
その、バックアップの分隊からのメッセージを書いた走り書きを見て、頬を少し緩ませながら、段ボール箱の開封を始める。
中身は銃器であった。
G18Cオートマチックピストル、UZI短機関銃、サーブ・スーパーショーティー散弾銃、MP5短機関銃、M16A2アサルトライフル、M870散弾銃、M72LAW対戦車ロケット弾、各種弾薬。
そして、L85〝A1〟。
天城は迷わず、鈍器と名高いそれを箱へと戻す。その他には、医療キットや高校の制服、教科書などが詰め込まれている。
それらを一通り取り出して床に並べる。その後、一枚のコピー用紙を手に取って英語でスラスラと手紙を書く。
『兵器の在庫処分がしたいのであれば、爆破処理を推奨いたします。』
その一文だけを書いたコピー用紙を、給弾不良が多発することで悪名高いL85A1と一緒に段ボールに詰めるて、入っていた高校の制服に着替える。
そして、荷詰めした段ボール箱を小脇に抱えて玄関を出た。