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8 長い1日

 家に帰って来て、2人とも疲れた様子を見せながらノロノロとソファに座った。

 お互い明るく振舞っていても…この状況はやはり異常であって、疲れないほうがおかしいのだ。

 自分の体が突然赤の他人と入れ替わった翔一、自分の弟が突然女になってしまった郁美。

 2人とも、大きなため息をついた。


「「はぁ~………」」


 2人とも、動かない。いや、動けなかった。

 長い沈黙の後に喋りだしたのは翔一だった。


「姉貴」

「…?」


 首だけこちらに向けて、郁美は続きを待つ。


「俺が飯作るよ。何がいい?」

「……すぐできる奴」

「じゃあ、おかゆ?」

「それはお腹が膨れないだろ!スパゲティとか」

「…難しいこと言うな。まぁ、了解」


 翔一が、長い髪を揺らして立ち上がる。

 今までずっと短髪だったから、髪が長いと違和感がある。

 台所から食材を取り出し、料理を作り始めた。

 背も縮み、手も小さくなったから、台所の使い勝手がまるで違う。

 今日は麺を茹でて、トマトケチャップを混ぜて調味料を入れ、少量の野菜と粉チーズを混ぜるだけ。注意すべきは…


「包丁気をつけろよ~」


 郁美からの檄が飛んできた。その通り。背も小さく、手も小さいのだから、野菜を切るときに手を切りかねない。


「大丈夫だって~」


 まな板までの位置が高く感じるが…それは背が小さくなったから当たり前のこと。

 それにさえ注意すれば、何とかなるだろう…と思っていたが。


「いてっ!うわぁ…」

「オイ!?マジで切ったのか!?」


 さすがに心配になったのだろう。郁美が立ち上がってきた。


「なーんて、嘘」


 後ろを向いて、微笑んでみる。こんなことで指を切るほど、不器用ではない。

 立ち上がった郁美は、翔一に拳骨をお見舞いして、元のソファに戻っていった。


「いってぇ…ホントに怪我したらどうすんだよ!!」

「うるせぇ!姉貴をからかうお前が悪い!」


 なんて掛け合いをしているうちに、料理が出来上がった。


「ほらよ。俺食ったら風呂入って寝るわ」

「んん~」


 既に料理を頬張っていた郁美は首を縦に振った。

 翔一も、早めの夕食を食べ、さっさと風呂に入ることにした。




 翔一は1人、部屋で勉強をしていた。

 じたばたしても、現状は変わらない。実際に変わっていない。

 もしかしたら、一晩寝たら…と言う淡い期待もある。だが、期待が外れたとしても…


「テストはしっかりやってくる」


 1人つぶやきながら、勉強は止めない。

 翔一が女になろうと、時間の流れまで変わるわけではない。

 この体でテストを受けることになったとしたら…勉強していなかっただけ損だ。

 万に一つでもそうならないように、テストまで体が元通りになってくれることが一番なのだが…

 そんなことを考えているうちに、眠たくなってきた。

 色々ありすぎて、やはり体も心も疲れ果てていたのだろう。

 普段ならまだまだ起きている時間だが、翔一は早めに布団に入ることにした。


(そういえば、昨日もこんな感じでめっちゃ眠かったんだよな…)


 だが、昨日と明らかに違うのは、布団に入ってもすぐに意識が落ちないこと。

 考えを巡らせる暇すらなく、昨日は眠りに落ちている。


(やっぱり、関係あるのかな…)


 って思ったが、そのことは皆に話したし、関係があったとしても、郁美かじいさんが気づくだろう。

 翔一は、自分の欲求通り眠ることにした。




 暗い道。翔一はどこかに向かって歩いていた。

 いや、自分の意志で動いているわけではない。体は全く言うことを聞いてくれない。

 きっと、これは誰かの意識。自分はただ、そこに居るだけ。

 意識だけの翔一には、周りの風景に見覚えがあった。


(商店街…さっきの公園か…)


 そこに座っているのは…翔一。

 泣き出しそうな表情を浮かべる。その姿に、翔一らしさは感じられない。

 じいさんが言っていた。信頼できる人が見つからないから彷徨っているのではないだろうかと。

 翔一には郁美が居る。だが、翔一の体を持ったこいつはどうなんだろう。

 こんな夜中に、1人公園のベンチで座っているということは…


(信頼できる人が…信じてくれる人が居なかった…ってことだよな)


 お互いのために、2人は早く再会しなければならない。

 再会して、何があったのか聞きだそう。だが、この状況を見る限り…向こうも何かを知っているわけでは無さそうだ。

 再会しても、元に戻ることは出来ないのだろう。

 だが、再会することで変化はある。変化があれば、新しい道も見えてくるかもしれない。

 そんな期待に胸を膨らませつつ…翔一は自分との再会を誓うのだった。

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