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4 謎

「無駄毛もなし。髪はメッチャきれい。おまけに私よりかわいい。ずるい!!」

「んなこと言われてもなぁ…」


 風呂場から2人が出てきた。

 文句を言いながら郁美が居間のソファーに座る。翔一も食卓のイスに座った。

 少し前、翔一はゴネた。メチャメチャゴネた。

 郁美がいきなり、「裸になれ!」と言い出したからだ。

 反論したが、「裸にならなきゃ無駄毛の処理の仕方教えられないでしょ!」と言われた。

 今の翔一は、体は女でも心は健全な思春期男子だ。姉貴に自分の裸を見られて、恥ずかしくないわけがない。

 だが、男だった頃の力が発揮できず、半ば強引に脱がされてしまったのだ。

 こうなりゃ自棄だ。男の体を見られるわけでも無し、ここは郁美に任せることにした。

 当然、郁美は普通に「女の子」の手入れの仕方を教えてくれただけだったが…


「胸は私より小ぶりかな…」


 現状で、済ませなきゃいけない処理は何もなかったのだ。

 それが悔しかったのだろう、郁美は少し拗ねた表情をしている。


「身長からしても、俺のほうが圧倒的に低いから…けど、まさかこの年になって姉貴のことを見上げることになろうとは…」

「でも、私は男だった頃の翔一に見上げられるわけじゃないから、嬉しくも何ともないけどなぁ…」


 ムッとなったが、今の自分が郁美に勝てるとは思わない。

 朝のドラゴン・スネークは郁美が油断していたから成功したようなもので、男の翔一相手だったらあんなに簡単に決めさせてはくれない。

 それに、体格の差もあるし、この体は筋肉も瞬発力も体力も無さそう…


「大体さぁ」

「…あ?何?」

「今ちょっと別のこと考えてた?」

「ちょっとな。この体、体力とか無さそうだな…って」

「私に勝てなくなったからどうしよう…ってか?」

「……」


 まさにそんな事を考えていたのだから、反論できない。


「鍛えればいいんだろうけど…果たしてうまく行くかねぇ…」

「鍛えても、この体に筋力がつくとは思えない。姉貴だって、相当鍛えてるだろ?」

「学生時代の名残だよ。色々スポーツやったから、無駄に体力がついてるだけ。今も職業柄、色々走ることが多いから体力が落ちないだけでさ」

「ふーん…」


 ふぅ…と、郁美は大きなため息をついた。仕事のことを思い出して、少しうんざりしてしまったのだろう。


「ああ…ごめん、変なこと思い出させたか?」

「いや、別にいいよ。明後日からまた仕事だ」

「開き直ったな」

「開き直らないとやってられないって。そうそう、忘れそうになったけど」

「大体さぁ…の続きか?」

「そう。大体さぁ、いきなり男が女になるってどういうこと?」

「俺に聞くな」


 翔一が女になってしまったことを、郁美は事実として受け入れてしまったようだ。

 いきなり男が女になるなんてありえるのだろうか…とりあえず、それは大きな謎だ。

 いや、考えられなくはない。なぜなら、翔一には普通の人にない、特別な能力があったのだ。

 だが、それと急な性転換が直結するとは考えにくい。

 何か他に理由があるのだろうか…


「何かあるのかな…」


 翔一のつぶやきに、郁美が反応した。


「何かあるって、いきなり男が女になって何がある?」

「例えば、この世から男を消そうとする存在が居る」

「……」


 あまりにもくだらない発想に、郁美が呆れてしまった。


「ごめんなさい、冗談です…」

「…まぁ、お前の自身のことだし」

「真面目に考えます…」


 だが、本当にわからない。何故、いきなりこんなことに…


「そういえば、お前の能力どうなった?」


 郁美の疑問。それは、翔一の特殊能力。感情が外に出せる能力。


「そういえば、最初に姉貴が駆けつけてくれたとき。あの時は俺の気持ちって外に出てた?」

「ん?朝一の話か?…動転しててわからなかったなぁ…」

「じゃあ、今試してみる」


 この力、制御するコツは自分に心の壁を作ること。

 閉まっておきたい、外に出したくない気持ちは壁の内側で、外に出したい気持ちは壁の外側で考えるようなイメージ。

 だが、抽象的過ぎる心の壁は、感情が高ぶるとすぐに無くなってしまう。

 雲が壁で、少しでも風が吹くとすぐに吹き飛んでしまう感じ。

 そう、翔一が思い浮かべたのは、自分の心の壁について。

 果たして、郁美に伝わっただろうか…


「さて、俺は今何を考えた?」


 数秒してから郁美に尋ねてみた。返事は…


「…女の体で興奮したらどうなるんだろう…って事を考えただろ」

「……ハズレ」

「だよなぁ…ごめん、全然わからなかった」


 つまり、能力も消えてしまっているということ。これは、翔一の体限定の能力だったのだろうか。


「うーん…全然わかんない」


 郁美は唸っている。正直、翔一も唸りたい気分だが…


(そういえば、もう1つの方は…?)


 最近身についてきた、他人の心を読む能力。ただし、この力は見たくない部分まで見えてしまう可能性がある。

 更に言えば、相手は郁美。出来れば、姉の心は読みたくなかったが…試さないわけにはいかない。


「考えてもわからないよな。今日も明日も休みだし、もしかしたら今日1日寝たら戻ってるかもしれないし」

「…そっか」


 この一言の間に、心の中を探ってみたが…


(全然見えない…こっちも消えたのか…)


 これで、翔一の特殊能力は行方不明だと言う事がはっきりした。

 翔一の中で1つの答えが出たのとほぼ同時に、郁美がとんでもないことを言いだした。


「じゃあ、これから街に出ようか!」

「はぁ!?」

「女にするって言ったろ?今度は女の立ち振る舞いについて教えてやる」


 翔一の言葉を無視して、郁美は部屋に戻る。

 逃げ出すことも、別の行動も起こせなかった翔一は、おとなしく居間で座っていた。

 数分後、服を何着も抱えた郁美が居間に戻ってきた。


「私が子供の頃に着てた服。とりあえず、貸してあげるから着なさい」

「何で?今のままでいいじゃん…」

「Tシャツとジーパンとかまんま男じゃん。かわいらしい服を着てみなさい」

「はぁ…まぁ、いいけど…姉貴さ」

「何?」

「ホントは妹が欲しかったのか?」

「うんっ!」


 そうやって満面の笑みで言われたら、翔一は何も言えない。

 これ以上は面倒だから、言われるがまま、郁美の服を着ることにした翔一だった。


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