表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

21 初めまして

 夢の中…なの…?

 翔一君が…いて…

 私が…いる

 私は…だれ…?

 翔一君…かっこよかったよ…

 志藤君たち…ボッコボコにしてくれて…ありがとね…

 力があっても…強くない…

 私…ホントは悔しかった…

 元の体に戻ったら…ちゃんと言うからね…

 さっきの返事…するからね…

 だから…早く…戻ろうね…

 あ…れ…

 私の体…女子に…?……

 ………




「あ、先生?ごめん、結局俺が来ることになっちゃってさぁ」


 そういって、翔一を止めることを諦めた先生の横をすり抜け、天乃が眠っているベッドへ。

 友達と再会する方がやっぱりよかったのかな、という心配もある。

 でも、翔一だって天乃の近くに居たいのだ。素直な翔一の気持ちだ。

 天乃が眠っているベッドの前、カーテンを開くと…


「……」

「……」


 お互いが絶句した。そこに居たのは…

 夢に見た理想の女子であり、さっきまでの自分の姿をした天乃。

 夢で見た憧れの男子であり、さっきまでの自分の姿をした翔一。

 2人の気持ちが重なる。その瞬間…


『っ!?白い…目の前が…っ』


 何が起こっているのか、2人にもわからない。

 目の前が白く、翔一と天乃が1つになった、夢と同じ感覚が2人を支配する。

 とても長い間、その状態が続いた気がする。わからない、何が起こったのか、本当に。

 気が付くと…翔一が床に倒れていて、天乃もベッドの上で倒れていた。

 先生が慌ててこちらに来るのがわかる。ということは、あの感覚に襲われていたのは、本当に一瞬だったのだろう。


「どうしたの!?」


 先生が慌てて飛び込んできたが、翔一がいち早く立ち上がり、


「なんでもねぇ、心配無用!」


 そういって先生を追い返す。

 先生はどうしても、すり傷が見える翔一の治療をしたいのだろうが、正直今はそれどころではない。

 早く天乃と2人きりになり、自分の体が元に戻った喜びを分かち合いたい。


「天乃、迎えに来たぜ」


 体は横になったままだが、目を開いている天乃に声をかける。


「……」


 だが、天乃は何も言わない。


「…天乃?」

「私…」


 囁くような小さな声で、確かに天乃は言った。


「元の体に…戻ったんだ」


 名残惜しそうな、寂しげな声で天乃はつぶやく。

 天乃は何を考えているのだろう。


(元に戻ったのに…うれしくない…のか?)


 決して声にはしなかった。でも、特殊能力で、気づかれているかもしれない。

 特殊能力に関して言えば、翔一には残っている。

 果たして、天乃には残っているだろうか…


「私も…嬉しいよ。翔一君」


 特殊能力で気持ちを読み取った天乃が返事をしてくれる。


「…安心した。だって、あんまり嬉しくなさそうだったし」

「うん…でも、翔一君の体から離れるの、ちょっとだけ寂しかったかも」


 お互い、友達とカラオケに行く約束をしていたのだ。

 そういう意味で言うなら、翔一も少しだけ寂しい…


「もぉ、そういう意味じゃないの!ホントに翔一君って鈍いよね…」

「ん…」


 天乃の心の中を覗く。そこにあったのは…


「姉貴とか…俺と一緒にいれる時間が減るから寂しいってか?」

「…うん」

「まぁ、」


 と、翔一が喋ろうとしたのを天乃が止める。


「でも、これからもずっと一緒だよね、翔一君。さっきの告白、私忘れないから」

「…告白…」

「好きって言ってくれた」

「ぶはっ!」


 ついつい吹き出してしまった。面と向かって言われると、自分はどれだけ恥ずかしいことをあの場でみんなに伝えていたのかと思ってしまう。


「あ、あれはだな。もうちょっとシチュエーションとか考えてだな」

「ダメ、忘れないから。翔一君からの告白は、あれが最初で最後なの!」

「う…」

「私も、好きです。喜んで翔一君の彼女になります。あ…でも、その前に、1つ言い忘れてたことがあるの」


 実は彼氏が居ました、とか言われたらショックだが。

 でも、そういう空気でもない。言いづらいことを言おうとしているわけではないのだろう。

 天乃が、言いたいことを整理する、一瞬の間があり、それから天乃は喋りだす。


「初めまして、翔一君。私、川辺天乃って言います」

「は…?」

「女子の私に会うのは初めてでしょ?私は前から知ってたけど…」


 確かに天乃の言う通り。2人は、出会ったその瞬間から、体が入れ替わっていた。女子になった天乃に会うのは、これが初めて。

 ならば、男子に戻った翔一も言うべきだろう。


「…おぅ。初めまして。俺は滝沢翔一。これからよろしくな、天乃」


 これが、翔一と天乃の本当の出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ