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18 テスト3日目

 今日は2人で堂々と登校した。

 校門の中まで2人で居ても、誰かに声をかけられることはなかった。


(まぁ、2人とも無口だし…)


 何も喋らず、ただ隣を歩いているだけだったから、カップルに見えないのかもしれない。


(天乃…もしかして…)


 ふとした疑問を、天乃にぶつけてみた。


「天乃、緊張してる?」


 周りには聞こえないよう、小さな声で、翔一は尋ねてみた。

 すると、驚いて体をビクッと震わせた後、


「う、ううん、そんなことないよぅ…」


 と、女言葉で返してきたのだった。


「絶対緊張してるな」


 そんなことを喋っていたら、靴箱の前にたどり着いた。


「よし、ここでお別れだな。最終日、頑張ろうぜ」

「うん!」


 緊張はしているみたいだったが…とりあえずは大丈夫そうだ。

 そう思うことにして、翔一は天乃と別れたのだった。




 翔一が、自分の机の前に来ると…


「天乃っち?」

「いつもは私のこと天乃っちとか呼ばないよね…」


 家でのテンションで突っ込みそうになったが、それをこらえてお淑やかな突っ込みを入れた。

 だが、声をかけてきた友達は、そんな突っ込みを期待していたわけではないらしく…


「志藤の奴、めっちゃ喋ってるよ」

「えっ…?」

「滝沢君と路上チューの現場を見かけたって…」

「……」


 ごまかすごまかさない以前に、どうしようもない状況だったらしい。

 今日、2人で登校してきたのは、あながち間違いではなかったかもしれない。


(下手に隠してたら余計に気まずかったよな…)


 ここはもう、開き直るしかないだろう。昨日、天乃とも確認したし、大丈夫だ。


「まぁ、路チューはもうやめるようにするねっ」

「天乃……」


 友達に、心配そうに見つめられてしまった。

 そんなに強がっているように見えただろうか。

 もう開き直ったから、翔一自身はあんまり気にしてないないというのが本音だ。


「さて、テストがんばろ!後1日だよ!」


 明るく振る舞う天乃を見て、不安半分安心半分といった表情で、自分の席に戻っていった友達。

 その後ろ姿に声をかける。


「カラオケ、ちゃんと行くからね!」


 それを聞いて、驚いたように振り返った友達は…


「…おぅ!」


 と、笑顔で返してくれた。

 その笑顔を見て、翔一は思った。


(周りの声なんて気にしたら負けだな!)


 持ち前の度胸は、男の時代から変わってないらしく…

 周りから向けられる、いつもとは明らかに違う感情が入り混じった視線は、何も気にならなかった。

 直前の勉強もバッチリだったし、テスト自体は会心の出来と言っていいだろう。

 ただ…気になるのは…


(この状態がずっと続いたら…天乃は…辛いだろうな…)


 周りの空気に敏感で、すぐにオドオドしてしまう天乃のことだ、こんな視線に耐えられるわけがない。


(俺が…どうにかしなきゃいけない…よな…)


 答えですべて埋められた解答用紙を眺めながら、ボーっと考え込んでいると…


「時間だーペンを置いて手を机の下へー」


 と、授業終了のチャイムとともに、監督の先生の声が響いた。


(後1教科…まずは目の前のテストを片付けてからだな…)


 なるべく時間を余して、対策を練ろうと考えた翔一だった。




 最後の1教科が終わり、お昼休みを挟み、1時間授業をやってから今日は放課後になる。

 友達グループと机を囲み、女子同士で弁当を食べることにも慣れてきた。

 だが、今日の翔一は話に絡むことはなく、上の空で相槌を打つだけだ。


(あー…どうやったら天乃が苦しくない環境になるかなぁ…)


 結局、何も思いつかない。周りの女子に話を聞きたくても、自分たちの体が入れ替わっていることを告白しなければならないから、相談もできないままだ。


(志藤が路チュー現場を見たって言いふらしてる?最低だなオイ…)


 しかし、自分たちの体が元に戻る可能性があるならば、路チューでもなんでもするべきだったのではないだろうか。


(だって体だけが入れ替わるって言うこと自体が異常事態なんだぞ…別にかまわねぇだろうが…)


「天乃…?」

「無理だろ…」

「天乃!無理って何!?」

「えっ…?」


 隣の友達に、小さくつぶやいてしまった本音を聞かれてしまっていたらしい。

 というか、周りの女子がみんな、翔一のほうを向いている。


「あ…アハハハ…何の話だったっけ?」


 ぎこちなくはにかんでみるが、そんなことで友達たちはごまかされない。


「……」


 その場に重苦しい空気が立ち込める。


「あの…さ」


 その空気を打ち破り、天乃とよく喋る友達が話し始めた。


「私、志藤と付き合うぐらいだったら、滝沢君と付き合ったほうがいいと思うよ…」

「…なんで?」


 自分と付き合ったほうがいい、なんて言われるとは思っていなかった。

 何人もの女性に振られた過去から、自分に自信など一切なかったから。


「滝沢君、告白の時は本気っぽくなくて自信なさげだって聞いたことあるよ…向こうから本気だって伝わってこないから、遊ばれて終わりって気がしちゃうんだって」


 正直、裏で本当にこういう事を言われていると知ると、軽くショックを受けた。


「でもね…志藤みたいに、常に友達グループで固まる男子って…カッコ悪いと思う」

「うん…」

「だったら、ちょっと危なくてもさ…頭がよくて、強い滝沢君に守ってもらった方がいいんじゃないかな…」


 こう言われてみると、翔一と付き合うにはまだリスクがあるように聞こえる。


「あ、あれだよ?私たちが知らない、滝沢君の悪い面を天乃が知ってるのかもしれないし、最終的にどうするかは天乃が決めること!」

「…うん、わかった」

「だから、志藤たちの言うことは気にしないで、元気出しなよ!」


 その一言を皮切りに、黙っていたみんなも、翔一を…天乃を励ましてくれた。


(天乃の友達…弱ってる時はオドオドしてる天乃の友達だもんな…)


 噂が消えないまま体が戻っても、彼女達が天乃を守ってくれる。

 翔一が、余計な心配をする必要はなかったのだ。

 友達であり、強い味方である天乃の友達を信頼して…


(俺は俺で、早く体を元に戻すことを考えよう!)


 そこでふと、こんなに大声で志藤たちの悪口を言っていいのか…と、志藤たちがいつも固まっている席の周りを見た。


「あれ?」

「志藤たちは昼休みになった途端に居なくなったよ。心配しなさんな!その辺はちゃんと私たちが見てるから!」

「ホント、心強い友達だな…」

「最近たまに出るその男言葉、天乃っぽくないから止めたほうがいいと思うよ…」




 そして放課後。


「川辺さん」


 さっきまで話題になっていた志藤から声をかけられた。

 その表情は…男子をリンチしていた時の表情。


(こいつ…また誰かを…)


「面白いものを見せたいんだ。大丈夫、キミをどうにかしようとは思わないからさ。体育館裏に来てくれよ」

「いいよ」


 昨日の男子をリンチする場面を見せて、自分の強さを見せつける気だろうか。


(それならやめさせてやる…!)


 間髪入れず返事をした反応の速さに、驚きの表情を見せた志藤だが、すぐに余裕の表情に戻り…


「じゃあ、後で」


 と言って立ち去ったのだった。

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