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12 学校へ…

 週が明け、テスト1日前と言うことで、多少はピリピリしているはずの月曜日。

 手術無しで性別が変わるという、普通の高校生なら、まずは経験しないことを経験した翔一は、ピリピリとは別の焦燥に駆られていた。


「何で制服が古いことに気づかねぇんだよ!姉貴のときと、ぉ…私のときと制服が違うんだ!」

「いやぁ、そんなこと忘れてたよ~はっはっは~」


 郁美が笑い飛ばしているが、そんな状況ではない。

 女子の制服は持っていると、郁美が昨日、自信満々に話していたから、確認もせずに今日を迎えたのだが…

 郁美が持ってきた制服は、前の制服。郁美が卒業した年に制服が変わり、翔一たちが入学したときにはその制服は古い制服になってしまったのだ。

 校則としては問題なく、この制服を着ている生徒はたまに見かけるが…


「ほとんど見かけねぇよ古い制服!天乃からもなんか言えよ!!」

「…クスッ」

「笑うな!今日は休む!!」


 パジャマのまま、着替えることを放棄した翔一を見て、天乃は涙ぐむそぶりを見せた。


「…私の…無遅刻無欠席が…」

「俺の顔で泣くな!」

「グズッ…」


 自分の泣き顔ほど、見ていて気持ちが悪いものは無いと思った。


「わかったわかった、俺の負けだ!姉貴、制服貸してくれ!」

「翔一君、俺2回言ったよね…?」


 今まで泣き顔だった天乃が、突然そんな事を言いだす。

 それがどうした?と言う顔で見つめ返すと、天乃は、


「罰ゲーム。今日の晩御飯は翔一君の当番ね」


 自分の顔にそんな事を言われて、納得できるわけもなかったが…


「おっ、そういう約束だったな。よし、私が許す。家事は全部翔一に任せろ~」

「……」


 朝一から疲れた。反論する気になれなくなった翔一は、黙って居間を出たのだった。




 嫌々昔の制服に袖を通し、学校に向かう翔一。

 隣には、自分の制服を着た天乃が一緒に歩いている。


「あーあ、なんでこんなことになっちまったんだろうなぁ…」

「わかんないよ…」


 学校に行って、その後じいさんのところに行って状況を報告。


(何で姉貴はじいさんをそんなに頼るんだろうな…)


 腕は確かだが、見るからに胡散臭そうなじいさん。

 もっと真面目で、しっかりした人に相談したほうがいいと思うのだが…


「翔一君。学校で俺はどう振舞えばいいの?」

「ん~…まぁ、自然体で大丈夫じゃないか?男子の話題についていけるか不安なんだろ?」

「そんなとこ。自然体でいいなら、そのまま頑張る」

「それでも、女子しか知らないような話題はタブーだからな。私も、自然体で振舞うように頑張るからさ」


 友達関係の付き合い方は、自然体で大丈夫。

 お互い、細かいことを気にするような友達はいない、と言うことなのだろう。

 と言うか、そう信じることにする。


(いちいち気にしてても体がもたねぇし…)


 翔一はそう割り切って、天乃とは校門の前で別れた。




 だが、クラスにたどり着く前に、翔一はトラブルに見舞われる。


「靴箱靴箱…お、これか」


 天乃の使っていた靴箱を発見して、上履きに履き替えているとき、知らない教師に声を掛けられた。


「オイ、川辺」

「は、はい?」


(一応女子っぽく振舞ったけど…バレてないよな?)


 大方、古い制服について突っ込まれるものだと思っていたのだが、教師はそれについて何も言わず、


「ちょっと、職員室まで」


 と言って、翔一を職員室に連れて行こうとする。


「え、私に何か…?」

「ん…?ともかく職員室に来なさい」


 よくわからないが、とりあえず行くしかないだろう。

 教師の後ろについて、翔一は職員室に向かったのだった。




「天乃!」

「……」


 知らない男性に睨まれて、今の自分の名前を呼ばれる。


(誰だこいつ?)


 職員室の更に奥の会議室に連れてこられた翔一。

 そこに座っていた、見知らぬスーツの男性から、突然名前を呼ばれたのだ。


「心配したんだぞ…」


(天乃ってもしかして年上の彼氏持ちだったのか?)


 もちろんそういうわけではないが、翔一はこの男性の素性には心当たりが無い。


「何で突然家出なんかしたんだ…!」


 ここまで言われて、初めて気がついた。


(この人、天乃の父さんか)


「いきなり変な男が家に居たと思ったら、俺達を父親呼ばわり…」

「ちょっとお父さん落ち着いてください…」


 隣に座っていた教師が、天乃の父親をなだめる。

 一昨日の朝体が入れ替わったのだから、その朝、天乃は翔一の姿になっていたわけで…

 娘のベッドで寝ていた知らない男が何を言っていたとしても、信用できないだろう。


(藁にも縋る思いで学校に待ち伏せしてるのも、わからなくはないな…)


 だが、天乃の体をしていても、中身は翔一。

 このまま、知らない家に連れて行かれるなんて、冗談じゃない。

 先生になだめられている天乃の父親は、天乃を見つめながら黙り込んでいる。


(さて、なんて言ったものかな…)


 黙り込みすぎるのも良くない。何も言わなかったら、問答無用で連れて帰られるだろう。


「お父さん…私、勉強を教えてくれる友達が出来たの!」


 翔一は、嘘にならない程度の適当な言葉でごまかすことに決めた。


「土日は、友達の家で勉強してたんだ。その友達のご両親、海外出張で居なくて静かに勉強できたし。家にはお姉さんが居て、面倒を見てくれるんだ」

「…じゃあ、あの知らない男は…」

「私と一緒に勉強している男子。私の荷物を一緒に運び出してもらってたの。ごめんね、黙ってて」


 正直、微妙な言い訳だと思うが、正直に話して信用してもらえるとは到底思えない。

 その上で、両親に気付かれずに翔一が部屋に居た事や、翔一が天乃のパジャマを着ていたことを突っ込まれたら、言い訳が苦しくなる。

 だが、天乃の父親はそこまで突っ込んでは来なかった。


「テストの点数は必ず上げるから…今回は大目に見て、お父さん…」


 胸の前で両手を合わせ、俯きながら父親の反応を待つ天乃。

 様子は見えないが、天乃の父親は、恐らく驚いているのだろう。


(天乃って2面性があるけど…オドオドしてるか、ずる賢いかの2つだからな…)


 その辺をうまく利用していると見せかければ、両手を合わせるお願いは効果がありそうだ。


「……その男の名前は?」

「滝沢、翔一君」


 天乃の父親は黙り込む。

 滝沢翔一とは一体どういう男なのか、自分の娘が黙って家を出てまで勉強を聞きに行った男の素性を知りたい。

 父親はそんな風に考えて居るような気がする。


「わかった、天乃が自分で決めたなら許す。滝沢という男が家に居たことも、何も言わない。次は、一言俺達に声をかけること。そして…」


 次の一言は、自分で口走った嘘を裏付けなければならない言葉だった。


「テストの点数が落ちたら外泊は禁止だ。滝沢と言う男がどういうやつか知らないが、二度と会わない事」


 恐らく…と言うか、ほぼほぼ間違いない。天乃のお父さんは、翔一と天乃が付き合っていると思って居るだろう。

 むしろ、それは疑われて然りの嘘を吐いているのだ。翔一も、それは織り込み済みだ。

 だが、こうでも言わないと、翔一は天乃の家に連れて帰られる。

 天乃の家に連れて行かれたら、魂が入れ替わっていることは、すぐにばれるだろう。

 今後の事も考えると、意地でもテストの点数は下げられない。

 翔一の体をした天乃だが、テストの点数が落とすとは思えない。


「わかった。もしもテストの点数が落ちたら、滝沢君とは二度と会わない。勉強も一緒にしない」


(天乃と勝負か…勝たなきゃ)


 学年2位に1度も勝ったことは無いが…天乃に勝たなければならない。その条件を飲んで、翔一はうなずいたのだった。


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