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9 あなたの体とお前の体

 翔一は目覚めた。また不思議な夢を見たなぁ、と思う。

 今度は、自分の体を客観的に見た夢か…

 時計を見ると、朝の8時。公園で一晩過ごしたなら、まだあそこに居るかも知れない。

 そう思うと、黙っていられなかった。翔一はベッドから飛び出した。


「……」


 チラッと、鏡で自分の姿を確認してみる。


「うう…やっぱり女か…」


 やっぱり、性別は変わっていなかった。




 パジャマのまま下に降りると、既に郁美がご飯を食べていた。


「おはよ。姉貴早いな」

「おはよう。昨日は私も早めに寝たからさぁ…」

「あっそ」


 それは嘘だ。翔一はすぐに見破った。

 目が真っ赤だし、それに化粧をしている。


(目の隈をごまかす化粧だろ…バレバレだって)


 恐らく、眠れなかったのだろう。いや、仮眠程度に1時間ぐらい寝たのだろうが、それ以降は全然眠れずに起きていた…と言うところだろう。

 だったらなんでごまかすのだろうか…そこまではわからない。翔一に心配をかけないように…と言うことなのだろうか。

 郁美の苦労の正体はわからないが、とりあえずは郁美の作った朝食を一緒に食べることにした。


「奪うな、バカ!」

「いいじゃん。気にすんなって」


 いきなり、朝飯の取り合いから始める姉弟だった。




 朝食が終わると、郁美はパソコンに向かった。どうやらパソコンは起動してあったらしく、ディスプレイの電源を入れるとすぐに画面が出てきた。


「何調べてんの?」

「お前と全く同じ症状を患った人がいないか探してるんだ」

「……」

「どした?」

「…いや、なんでもない。とりあえずさ、俺もう1回街に出てくる」

「あ、じゃあ私も…」

「いや、姉貴はいいよ。散歩ついでだから、どうせ本気で探すわけじゃないし」

「ふーん…女なのは気にしないのか?」

「気にしてもしょうがないし。黙ってたら誰も気づかないって」

「…変なのに絡まれたらすぐに連絡しろよ?」

「わかったって」


 郁美の心配性にも困ったものだ。つくづく翔一は思う。

 部屋に戻って、女物の服装に着替えた。元の翔一の服はサイズが合わない。

 郁美にも喋ったが、これ以上女であることを意識したってしょうがない。…とは思うのだが。


(…全く持って理不尽だ。あーあ、腹が立つ!!!)


 口に出さず、心の中で悪態をついた。

 着替えた翔一は、郁美に声をかけて家を出た。




 向かった場所は、夢の中で見た公園。もしかしたらまだ…と言う、淡い期待を寄せて向かってみた。


(ホントに居るよ…)


 夢の中で見た姿そのままで、翔一が座っていた。この辺に居るということは、やはりこの近くに住んでいるのだろう。

 正面から出て行ったらまた見つかって逃げられてしまう。一旦公園を離れ、遠回りをして後ろに回ることにした。

 郁美の言うように、魂が入れ替わってしまったのだろう。恐らく、この体の持ち主の魂が、今の翔一の体の中に居る。

 そして、その存在も今の翔一と同じように、やりきれない気持ちでたくさんのはずだ。

 同じ現象を見たからこそ、気持ちも分かり合える。出会って訪れるであろう変化に期待するだけではなく、同じ痛みを分かり合える存在が居てくれれば、今より少しだけ気が楽になれる。

 そんな希望を抱きつつ、遠回りをしてうまく公園の裏に出たが…


「あれ?居ないじゃん…また逃げられた…」


 軽い落胆。だが、1日経ってもまだこの辺をうろついているということは、探せば見つかるということだろう。

 居ないなら仕方が無い、郁美と2人でまた来よう…そう思って、家に帰ろうと思ったとき。


「滝沢君…」

「え…?」


 後ろから声をかけられた。この姿、女に対して「滝沢君」呼ぶ人物は1人しか居ないはず…

 振り向くと、そこには“翔一”の体をした「誰か」が立っていた。


「……お前…何者だ…?」


 目の前に居る男へ、翔一は問いかける。


「私にも…わからないよ…」


 今にも消え入りそうな小さな声で、その“女”は言った。


「でも…振り向いてくれたってことは、やっぱりあなたは滝沢翔一君…」


(こいつが…この体の持ち主…)


「名前は?」

「川辺 天乃と言います」


 女になった翔一と、男になった天乃の、出会いの瞬間だった。

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