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一之瀬瑠斗 & 九重坂 菱 + 五反田しぐま  ┬Side Hishi

 やばい。遅れる。

 

 「おばちゃんごめん!パン一個ちょうだい!」


 部屋を出るなり制服のボタンもとめないまま食堂へダッシュ。声かけられたおばちゃんもその勢いに負けて、バターロールをひとつ取り出すと声の主にハイヨと手渡す。


 「サンキュ!いってきます!」


 「急がないと遅刻だよ!」


 寮母の春日さんの声を背後に聞きながら九重坂 菱はパンをかじりながら走った。


 …走ったものの、そうあまり得意じゃないものは長続きしなく。


 寮を飛び出して少し走ったところで、諦めて歩くことにした。

 時間も微妙。

 寮からたいして遠くはないが、全速力で走りこまないと間に合う気がしない。

 

 入学式に既に遅刻して大分目立っている。

 もういまさら、無遅刻無欠席なんて狙う気もないし、どっちにしろもともとそんな真面目に学生生活送ろうという気にもならない。


 ただなんとなく、あたりさわりのないように。

 まぁ、できれば誰にも迷惑かけないように。

 でもって、平和に。

 そんな学校生活が目標。


 まぁ、遅刻ってだけで迷惑かけてんのかもしれないけど。

 こんくらいたいしたことねぇだろ?って思うし。

 同室のセンパイは部活の朝練だかですげー早くにいなくなるから起こしてくれって宛に出来ないんだよな。早くていいなら起こしてやるぞっていわれたけどさすがに遠慮したい。


 時間内に学校につくのを諦めて、ちょっと横道に反れて近くのコンビニで足りない分のパンを買う。

 と、そこで物騒なものを見た。


 4、5人の見るからに怪我をするから近寄るんじゃねぇと威嚇して歩いているようなスタイルの学生。

 そして、その男たちを睨み上げる小さな生徒。


 …つかあれ、隣のクラスの奴じゃね?


 さほど大きくないコンビニの奥で雰囲気が怪しい。

 レジからも見えてるだろうに、朝の忙しい時間帯なのと状況が状況でアルバイトの女性が怯えて見ている。


 菱はいくつかパンと飲み物を選んでレジで会計をすますと、にっこりと笑って愛想をふりまきつり銭を貰った。とりあえず怖がってる店員さんに俺はフツーの人よ?とアピール。


 「おーい、遅れてごめんな、パン買ったから学校いくぜ」


 菱が声をかけると大柄な男たちがこっちを見る。


 その隙を見て小さいのが ぱっとこちらへ駆け寄ってきた。


 「わりぃわりぃ」


 思いつきで声かけてみたが、こいつも合わせてくれてるようだ。


 「急がねぇと遅刻すんぜ?」


 「だよな」


 そんな傍から見たら他愛のない会話をしてコンビニを出る。


 案の定、そんな簡単にもいかなくて 出て数歩歩いたところでコンビニの中からでてきたがらの悪い男たちに呼び止められた。


 「そこの凸凹コンビちょい止まれや」


 凸=俺。

 凹=きっとこいつ。


 俺=身長180くらい。

 こいつ=おそらく150ちょい?

 

 コンビくんだ覚えはないけれど。


 「呼んでる?」


 「…みたいだね」


 一応確認してみたものの、やっぱり呼ばれてるらしい。


 道の真ん中ではいやだから、とせめてわき道にそれる。


 がらのわるい男は結局6人いた。


 「で?」


 仕方がないから口を開く。

 話をしても通じないような気がするけど。


 「俺急いでるんだけど?」


 用件は手短に。


 そう言うと勝手にあちらさんは切れてくれた。


 ふざけるな!だって。

 ふざけちゃいない。真面目でもないけれど。


 挨拶代わりなのか拳を上げてかかってきたものだから、その拳を左手で払って鳩尾あたりに一発ご挨拶。


 見事鳩尾にきまってくれたおかげでそいつは真っ青な顔して蹲って呻いている。


 あ~ぁ…とつぶやいたのは隣の小さいの。


 まぁ、こういう奴らは言ってもきかないし。

 正当防衛にするならあっちから襲ってきてくれないとならないし。

 少し離れたところでさっきのコンビニの女性がちらりと店の硝子越しで心配そうに見ている。

 ってことは、ちゃんと『僕たちわるくないですよ、襲ってきたのはこいつらです』って証明してくれるだろ。


 「あれ?拳で挨拶だなんて男らしいっておもったのに」


 そう言って菱は鞄を小さいのに渡した。

 で、お前は逃げろって言ったんだけどね。


 そのちっこいのは俺の鞄と一緒に自分の鞄まで下に置きやがった。


 それが合図だったかのように、5人の男が詰め寄ってくる。


 俺一人じゃこのちっこいの守れる気がしなかった。

 まじ、こいつボコボコにされたらどうしようって焦ったけど…そんな必要はなかったらしい。


 案の定小さいやつのが絞め易いって思った男3人がちっこいのに掴みかかる。殴りかかる。

 それをするりと避け、受け流し、拳も受けて流す。


 すげぇ。


 こっちも二人相手にしてるからじっとは見ていられなかったが、ちっこいのすげぇ。


 ちっこいのは自分からは攻撃をしかけなかった。

 全部、受けて流した。


 けど、俺はそんな器用じゃないからね。

 優しくもないしね。


 「ぐっ…」


 「ぶぁっ…」


 容赦なくポイントを抑えて入れさせていただきます。

 なにって?拳とか、蹴りとか。

 でもまぁ、人体に害がない程度にね。こんな奴らにも未来があるだろうしね。たぶん。


 自分相手の二人が片付いたところで、ちっこいのを狙ってた奴の肘を押さえて関節を捻らせていただく。


 「いっ…イデデデデ…」


 なみだ目でそいつは悶える。


 「痛い?痛いよな?じゃぁやめよっか。もう手をだしてくんなよ?」


 そう言って蹴り飛ばすと、残りの二人は呆然として立ちすくむ。


 なんとか小さいのを掴みあげて一矢報いたかったのかもしれないが、俺の顔をみて諦めてくれた。

 いやなんか、そんな怖い表情してたとは思わないけど?

 楽しませてもらったし。


 「こっ…こいつ、ヒシだ…」


 「げぇ…」


 見たことのない男に名前呼ばれるとは思ってなかったけど。


 まぁ、いっか。


 「じゃ、な。行こ」


 そう言って鞄を拾い上げ、ひとつを小さいのに渡すと とりあえず学校方向へと歩いていった。







 「で、お前B組のだよな?」


 暫く歩く間無言。

 とりあえず名前を聞いてみようと口を開く。


 「五反田しぐま」


 「あ?こぐま?」


 「しぐまだ!」


 「俺は九重坂菱。って、お前も南寮だよな?あそこにいるってことは」


 そう言うと小さいの…五反田は頷いた。


 「学校間に合わね~な~。こぐま、一限さぼる?」


 「……」


 俺が勝手にこぐまと命名したのがきにくわないのだろうか、若干無言。

 でも無言は肯定と勝手に取ってみる。


 「屋上行こうぜ、で、朝飯。さすがにちっこいロールパン一個じゃもたねぇや」


 お前の分もあるぞ、と言ったところで五反田が何か言った。


 「え?」


 「…いいのかよ、お前…」


 「え、サボり?今更じゃね?」


 「じゃなくて!」


 なにがいいのか素で分からなかった。


 「学校にバレたら面倒だろ…それにきっと、あいつらのターゲット次からお前に…」


 「あ?いやいや、大丈夫だろ。多分。俺のことヒシって知ってたし」


 俺昔ヤンチャしてたからさ~と 付け加えておくと、すげぇな、と言われた。


 まぁ、昔は昔。

 今は今。


 それよか、攻撃に出ず全て守りで通したお前のほうがすごいとおもうんですが?

 受けるので精一杯で攻撃にでれなかった、って雰囲気じゃない。

 むしろ受けるのにも余裕があって、無駄な心配はいらなかったくらいだ。


 「なぁ、こぐまこそ…ナニモン?」


 そう言ったら、俺もヤンチャだったんだよって笑って言われた。


 こいつ、笑ったらほのぼの系でかわいいかもしれない。

 あれだ。

 こぐまのぷーさん。ほっぺたに傷があるからやんちゃなぷーさん。


 …言ったら殺されそうだな。

 互角に戦えるかな?


 そんなこと考えてたら、学校についた。


 こっそり門を超えて中に入る。

 わざわざインターホン押して遅刻しました開けてくださいなんていわない。

 近くに生えている街路樹と脚力をつかったら難なく超えれる。

 こぐまも運動神経に申し分なく、二人して成功。

 そのまま屋上へと隠密行動。まるでニンジャだな。





 「うぉ、すげぇ開放感」


 前屋上に来たときは開くかな?どうかな?って暗証番号押してみただけだったしな。

 そしたら見事に開いたわけで。


 実際出るのは初めてだ。

 今日は天気いいな~と、伸びをする。


 「運動したら腹へった~。お前も食うか?これ旨いぜ」


 そう言ってどかりと腰を下ろす。

 食った後はちょっと早い昼寝でもすっか。


 新発売だったパンを食べて、他愛のないことを話す。

 まぁ、今日知り合ったばかりなんだけど、なんか面白そうな奴に出会えてラッキー。


 次のパンの袋を開けようか、そのまえに飲み物を…と思ったとき、なにか背後に感じる。

 なんというか、違和感?

 お化けも信じないし見たこともない。

 UFOだってしかり。

 ただ、俺の感は当たる。

 あたることが多い。たまに外れるけど。

 

 「んー…もう一本飲み物買ってくりゃよかったかな」


 そう言って振り向いた。

 そして見つけた。


 扉の上のスペースから、鏡でこちらを見ている目。

 おもわず にっこりしてしまう。


 やっぱり俺の感すげー。自画自賛。


 「どうした?」


 こぐまが不審にこっちを見る。


 「いやぁ、もう一人いたんだなぁって。怒られないってことはセンセじゃないよな?」


 センセなら即効つまみだされてそうだもんな。


 「後ろに梯子があるから上って来い。そこだと北寮の一部から丸見えだからばれるぞ」


 どっかで聞いた声?まあいい、バレると大変だ。

 先客のこいつにまで迷惑かかるしな。


 言葉に従って梯子を上ると…驚いた。

 今日は驚きの連発だ。


 「…って、イインチョ?」


 そこにいたのは我がクラスの学級委員長。

 なんだっけ。名前。

 忘れた。

 名前自体が委員長でいいんじゃね?ってくらい優秀。真面目。

 ってかんじの人物。


 「立ってると目立つ。せめて座れ」


 起き上がるでもなく寝そべったまま委員長は言った。

 すげぇ意外。

 委員長もサボリデスカ?

 …なんて聞けない。

 見ただけでさぼりだって分かるような態度だし。


 しかしあれだな。男前。っていうか 綺麗系?

 こぐまと正反対にいそうなタイプ。

 かわいいから程遠い。

 俺からも程遠いな。

 サボっててもあれだ、生真面目、堅物、綺麗系。

 下から見上げられててもこえぇよ、その冷たい目つき。


 「イインチョ?う、あ。本当だ、A組の委員長がなんでこんなところに」


 思わずじっと委員長をみてたら後ろからこぐまが上ってきた。


 「あれだろ、主席入学して入学式んときに壇上でなんか言ってた!」

 

 へぇ、そんなすごいやつだったのか。

 まぁ 頭よさそうだよな。

 見るからに。


 「しかしまさか委員長までサボりとは思わなかったな」


 俺がいえなかったことをこぐまがさらりと言う。

 そしたら気を悪くした風でもなく、生徒会がなんちゃらと言い始めた。

 生徒会なんてまったく縁のない世界だ。

 こぐまは なにやら華やかだといってたけどさっぱりわからん。

 ま、興味もないからいいけれど。


 なんだかんだいって冷たくて人を寄せ付けないような堅物なイメージのあった委員長は面倒見の良い奴だということが分かった。

 そこは他の角度から見えるからもっとそっちとか。

 俺達が遅刻したのもなんとかしてくれそうだったりとか。

 

 なんか、ふんって笑って無視されそうなイメージだったのが、案外いい奴なんじゃね?とか。


 中学のときの学級委員長が絵に描いたようながり勉くそ真面目タイプで、自分の常識の枠から出た奴は人間じゃないくらい言うやつだったからな。

 なんか偏見あったのはたしかだが。


 あぁそうだ。

 こいつとは目があったことがなかった。

 今日初めてだ。

 まぁ話す機会もなかったけど。

 


 つーか、名前おもいだせねぇ。


 1年A組の学級委員長。


 きっと俺なんかとはちがって綺麗な生き方してんだろな。

 目が綺麗だもんな。


 ってじっと見てたら何を見てるって怒られた。


 目、っていったらもっと嫌な顔された。


 こぐま、こいつも面白れぇ。


 「ちょっと寮出るの遅れたら、こぐまに会った。で、そのおかげでサボれて、イインチョと仲良くなったし、穴場もゲット」


 さっき言ったこの言葉はほんとに本心。


 なんか良い学校生活おくれるような気がしてきた。

 ま、トラブルは何かと多そうだけど。




- The Land of the Last Moon -


Side Hishi


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