二十四話 喰いきれぬ夕飯、明日への布石
「うっぷ・・・」
影秋は宿に帰ってきていた。
「ふぅふぅ・・・いただきます・・・」
「あ、お嬢ちゃん?無理しないでね?」
「む、むりなんかじゃない・・・」
影秋は、夕飯と戦っていた。
「食べてきたなら無理しなくてもいいんだよ?」
そういってくれる調理師さん、いつもおいしい料理を客に提供している調理師さんだが、影秋がいつもすごい食べっぷりなので今日は特盛を影秋専用に用意していたのだ。
「無理じゃないっす・・・無理じゃ・・・ない・・・こんなにおいしそうなのに・・・」
「あ、あら、うれしいけど食事は無理してもおいしくないでしょう?」
「いえ!おいしいんで!!」
「そ、そう・・・」
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」
影秋はおいしい食事を影秋だけ特別に特盛で用意してくれたがとてもうれしく、己の腹に入らないことに対して錯乱していた。
とても迷惑である。
「ぐ・・・ふっ・・・」
三分の一食べたあたりで影秋はダウンした。
「もう!無理して食べてもらってもうれしくない!また今度作るわ。」
「そ、そんな・・・そんなぁああああああああ」
大げさである。
そこに、
「お、アキじゃないか!!随分弱ってるなどうした?」
「クーガーさん・・・ご飯が・・・食べたいです・・・。」
「あぁ?食えばいいじゃねぇか」
「あのねぇこのお嬢ちゃん、買い食いしたみたいでねぇ・・・そんな時いつもいい食べっぷりだからって私が少し多めに用意しちゃったのよ。だから・・・」
「ああ、なるほどなぁ・・・よし!俺が変わりに喰ってやる、もったいねぇからな」
ちなみに言うが、「少し」ではなく「特盛」である。
「お、おぉ・・・こ、こんなにか・・・」
「クーガーさぁん・・・買い食いしなきゃ俺が喰ってた飯なんです・・・食べてやってください!!」
意味がわからないことを言い出す影秋。
「あ、あぁ・・・いくぜ!!」
覚悟を決めるクーガー。
「うおおおおおお!」
驚くべきスピードで減っていく食事たち。
「あ、ああああ・・・俺の食事たち・・・」
影秋は悲しそうに見ていた。
「あらあら・・・そんなに急いだら味もわからないでしょうに・・・」
っと言う調理師であった。
「ふぅふぅ・・・喰いきったぜ」
「ぐす・・・う”う”う”次は負けないからなー!!」
と、喰いすぎたはずの影秋が涙ぐみながら叫ぶ。
「あ、アキちゃん、勝ち負けじゃなくないか?」
と、クーガーが言う。そこに、
「はいよ!これが本来のクーガーの分だ。ちゃんとお食べ」
と、調理師が 本来のクーガーの食事を運んできた。
「お、おい・・・俺はもう腹が一杯なんだ。」
「お嬢ちゃんなら許したけどね。あんたは自分から食べるって言ったんだ。ちゃんとお食べ」
「う、うぉおおおおおおおお」
絶望で叫ぶクーガーであった。
「腹も落ち着いてきたわー買い食いは幸せだったけど今度から量に気をつけないとな」
と、回復してきた影秋が独り言を言う。
「ううう・・・俺はもうだめだ・・・ベリル、すまない」
「クーガーさんは大げさだなぁ」
人のことをいえない影秋である。
「それにしてもアキちゃん、同じ宿たぁ奇遇だな。元気にしてたか?」
「元気だったっすよ!!まじゴブリンけちょんけちょんにしてました!!」
「ほぉ・・・駆け出しでゴブリン討伐したのか、やるなぁ!」
「小規模な巣だったんですけどね!異常事態とかでシャーマンが居ました、まぁ俺の手にかかれば赤子の手をひねるようなもんですよ!!」
強がりである。
「シャーマンが出たのか!そいつぁ・・・「あ、アキちゃん!!朝はごめんねぇ!!」・・・」
クーガーがしゃべっている途中で、食堂に入ってきたベリルに言葉をさえぎられる。
「いえ!お役に立ててよかったですよ!」
「あなたが運んだあの人も、なんとか回復したみたいよ。まぁ魔法があれば死なないかぎりなんとかなるものね。」
魔法治療は死なない限り外傷はなんとかしてしまうというトンデモ治療だった。
材料が貴重なため高価なポーションなどもあり、外傷に対しては現代日本以上の物があった。
(魔法治療すげぇ・・・ポーションとかもあるのか、ファンタジーだなぁ)
今更である。
変なところで異世界を実感する影秋であった。
「あ!俺そろそろ寝ないと、明日早いんすよ!」
「あら、残念だわもっと話をしたかったのに・・・何かあるの?」
「明日ゴブリンの巣討伐の依頼があって同行することになっているんですよ。」
「な・・・馬鹿な!!あれはランクBのはずだぞ!!」
と、クーガーがいきなり大きな声で怒鳴る。
それは影秋を心配してのことであった。
「いえ、あのですね。俺が昨日受けたクエストが小規模ゴブリンの巣討伐依頼で、そこで大規模なゴブリンの巣という異常事態が発覚して正式に騎士団から手伝ってくれって言われたんですよ。」
「ランクFの君をか!?」
「それが!聞いてくださいよ!!シャーマン倒したのでランクEになったんですよ!!」
「シャーマンを?君がか?」
「ええ、俺が倒しました。」
「ふむ・・・そうか。」
考え込むクーガー、大人しく見守るベリル。明日の朝飯を考える影秋。
(明日の朝飯はなんだろうか・・・ん?朝早いなら喰えるのか?うわ、不安になってきた。)
(アキちゃんが大規模ゴブリンの巣に・・・危険すぎる!だがシャーマンを倒し騎士団から正式に依頼されているらしい・・・どうするか・・・)
考えてることはかなり違うが双方とも心に不安が募る。
「よし!俺達もゴブリンの依頼うけるぞ!ベリル!!」
「ええ、わかったわ。」
二つ返事だった。
「え!ベリルさんたちもくるんですか!?よっしゃあ!!」
食べ物の不安を隅に追いやり喜ぶ影秋。
自分が提案したのに、おまけ的な言い方されたような気がして落ち込むクーガー、ニコニコしているベリル。
その様子は中々奇妙なものがあった。
「そういえば・・・ベリルさんとクーガーさんのランクはいくつなんですか?」
「私はこれでも一応Aよ。」
「俺は、AAなんだ。」
「え・・・た、高くないすか・・・?」
「そりゃ・・・俺達は冒険者やって長いからな!!」
「実力がないとAになれず、AAなんてギルドにとって特別な意味をもつらしいじゃないですか!!」
「ハハハ、大げさなんだよ!」
大げさではなかった。
緊急時のとき頼りにされるような人物である。
「それよりも、Aランクの4人PTでドラゴン討伐できるって言ってましたけど、あの時のレッドドラゴンはどうして倒さなかったんですか?」
「アキちゃん、それはな?バランスが整ったPTだから倒せんだよ。あの時は商人もエンリコたちもいた、俺が死なないように戦えはするが、倒せるような戦いはあの状況ではできなかった、誰も死なずに倒すなんてもっと無理だ。」
「な、なるほど・・・色々考えてたんですね!」
「アキちゃん・・・俺が頭からっぽに見えてたのか?」
「そんなことないですよ!」
クーガーは傷ついていた、
「あらあら、アキちゃん。あんまりいじめないであげてね?」
「いじめてなんかいませんよ!ベリルさん明日は頼りにしています!!俺は風呂入って寝るんで!!おやすみなさい。」
「ふふふ、せっかちさんねぇおやすみなさい。」
「あ、ああ・・・アキ・・・」
最後まで頼りにされなかったクーガーであった。
影秋は自室に戻り、すぐさまお風呂に向かう。
「うあー髪をゴムでとめたせいか癖が・・・まぁシャワー浴びちまえば関係ないか!!」
と、ゴムをはずし服を脱ぐ。
そして風呂場へ
「今日こそは・・・今日こそは失敗しないぞ!!」
「お風呂の湯張り終わり!!」
「水圧よし!温度よし!いくぞ!!」
と、シャワーを浴びる影秋。
「く、ククク・・・ハーハッハハハ!!」
「俺はやったぞ!無事にシャワーを浴びれたんだ!!」
できて当たり前のことを大喜びする影秋、
「これでお風呂が快適にぃ~♪」
即興で歌いだす。
「なるんだぜぇ~ふんふん~♪」
歌詞が思いつかなかったのかメロディだけを口で言う影秋だった。
「さてと、あがるか」
お風呂から出て、体を拭き下着をつける。
そしてそのままベッドに入る。
「明日は大変だ・・・早く寝ないと!!」
「ってことで、おやすみなさい。」
「・・・目が冴えて眠れない!」
遠足前の子供みたいな影秋であった。




