九話 この世はご都合主義
影秋は迷っていた。
「あーあ、ベリルさんたちにくっついていけばよかったわー」
道がわからないのである。
「大通りまっすぐいけば冒険者ギルドがわかるって言われたけど・・・大通りがどこだかわからない!!」
方向音痴である。
「にしてもすげぇなぁ、活気がめっちゃあるわ。」
道は人で溢れかえっており商店からは宣伝の声が聞こえてくる。
熱気に溢れており歩く人々はエネルギーに満ち溢れている。
「日本とは大違いだな・・・おっとっと」
人とぶつかってしまった。
「すんません。」
「いえいえこちらこそ。」
影秋がまず謝り、そしてぶつかってしまった通行人も謝った。
そして影秋はその人をみる。
「えっ」
獣人であった。
もっと言えば猫耳であった。
そして尻尾がゆらゆら動き猫の目でキリッとした美人がそこにいた。
「なにか?」
「え、い、いあ、なんでもないです・・・」
ここは異世界なのだ。
傭兵団の人たちの中にも耳の長い女の人が居た。
(あれはエルフだったのかな?)
「あの、大丈夫ですか?」
そんな事を考えていたら、猫の獣人が話しかけてきた。
「は、はい。大丈夫です。ぶつかってしまってごめんなさい。余所見していました。」
「大丈夫ならいいんですよ。それでは」
「あ、あの待ってください!」
「はい?」
影秋は迷っていたのだ。
「冒険者ギルドってどっちすかね?」
道に・・・迷っていたのだ。
「ここが冒険者ギルドよ」
「すみません、わざわざ案内までしていただいちゃって」
「いいのよ、あなたなんだか可愛らしくてほおっておけないわ」
美人でしかも猫耳の獣人に可愛らしいといわれてすこし照れてしまった影秋。
(そういえば俺女になっちまってたんだっけ・・・身長とかも違うはずなのにかなりなじんでるな・・・)
影秋にはわからなかっただろうが、魂の形が如実に現れた体なのだ。
なじまないわけが無い。むしろ前より遥かに動きやすいだろう。
「それでは、色々ありがとうございました!!」
「ふふ、ねぇ自己紹介がまだだったわよね?私はエリスよ」
「あ、す、すみません。ここまでお世話になっておきながら自己紹介がまだでしたね。
俺は田中影秋っていいます。」
「タナカ?変わった名前なのね。」
「田中は苗字で名前は影秋って言います。親しい人はアキって呼ぶのでそう呼んで下さい」
「わかったわ。アキ、縁があったらまた会いましょう。」
そういってエリスと名乗った獣人は去っていった。
「この世界はいい人ばっかだなぁ・・・っといつまでも出入り口にいたら邪魔か、さっさと入っちまおう」
影秋の勘違いである。
中に入ったらそこは地元の市役所を想像させるつくりだった。
並ぶ受付に待合の椅子、隣の部屋には椅子とテーブルがあり談話室みたいになっていた。
そして壁にはボードがありびっしりと紙が貼られていた。
そこにいるのは様々な武器を装備した人たちがひしめき合っていた。
(すげえ・・・市役所と違うのは熱気があるところだな)
様々な人種の人たちが依頼を見にきたり、話し合い情報交換などをしていた。
PT募集掲示板みたいなものも見えた。
そこで初めて気付く・・・日本語じゃない。
だが読めるのだ。
(えっ・・・読める?)
そこで影秋はハッとする。
(いままで俺はずっと日本語でしゃべっていたが・・・ここは異世界だ・・・通じていた・・・?)
冷汗が出てきた。
(何で通じてるんだよ・・・なんで読めるんだよ・・・。俺はどうしちまったんだ・・・?そうだ、女神様に聞いてみよう。)
<あ、(幼)女神様?>
<なんですか?後(幼)はいりませんよ?>
<(心を読みやがった・・・)忙しい中すみませんけど、聞きたいことがあるんですよ。>
<どうぞ、今忙しいわけではないので大丈夫ですよ。>
<あの、俺異世界からきたじゃないですか、言葉も文字もわかるんですけど・・・。これも亀裂の影響なんですか?>
<ああ、その事ですか。それは亀裂の影響じゃないですよ。>
<え?亀裂じゃないんですか?>
手に汗が滲んできた影秋、
女神が己の変化が亀裂以外だというのだ、多少の恐怖を感じてしまう。
<それは、私の祝福の効果ですね。あなたの中の言葉や文字の概念をこの世界のものに置き換えました>
<えっ・・・、祝福の効果だったんですか!!>
<はい、そうですよ。>
<(幼)女神様ありがとうございます!!そんなことまでしてくれていたなんて・・・。>
<いえいえ、いいんですよ。後次(幼)つけたら着拒します。>
<すみませんでしたぁ!!!>
(とんでもなく便利だな・・・祝福ってのは・・・)
女神様との念話を切り上げ安心する。
影秋は文字が読め、言葉が交わせることに感謝しながら受付に向かうのであった・・・。