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BLUE  作者: 数科 学
4/6

 ユウちゃんのあとを追って行こうとしたら、自転車を引く紺色の制服をした人が散策を楽しむ風でやってきた。ちょうど、浜辺に降りる坂と防潮堤上にある歩道の分岐点でのことで、歩道のほうからやってきた。

「お巡りさん、こんにちは」僕はスーツを整えながら警官に挨拶をした。

「お、こんにちは」

 気さくに挨拶を返してくれたのは、例の長谷川さんだった。

「あ、長谷川さんじゃないですか」

「むむ、本官をご存知ですか。はて、どこかで――」目を二三回瞬かせて「おお、スグル君か」と相好を崩した。覚えてもらえてたのが、なんだかむずむずした。

「いや、何年振りかね。まったく、立派な社会人になりおって」

「いえいえ、まだまだ立派には程遠く……」本当に立派には程遠い。

 僕の言葉に長谷川さんはかかと笑った。「そうか、そうか」とひどく懐かしむようだった。一通り感慨に耽り終わると長谷川さんは日常会話をするように尋ねてきた。

「それで、今日はいきなりどうしたんだい」

 今日はいきなりどうしたんだい、と帰郷目的について訊かれていた。まあ、話の入り方として当然だ。けれど相手が長谷川さんでも警官が持つ独特の雰囲気に僕は気圧されて、変な邪推が働いてしまいそうだったが、長谷川さんはそんな警官然としたことを言っているんじゃなくて、素直に訊いてくれているんだ。と、自分の心に言い聞かせた。

 応えようとして、はたと言葉に詰まる。そういえば、僕はなんでこの町い帰ってきたんだろう。

 本当に、ただ、何となくだった。東京から三時間もかかるこの町にぶらりとやってきたのだ。正直にそう言おうとして、踏みとどまる。さっきのおじいさんの時の二の轍を踏んでしまう。それに、社会人にもなって、ぶらりというのもいけない。今日は曲がりなりにも平日でもあった。

「いえ、近くに用事があったのでそのついでに」咄嗟にごまかす。

「そうか、そうか」とまた、ひ弱な腕を組むんで深くゆっくりと首を縦振る。ひょろりとした長身痩躯の長谷川さんだけど、一応武道の有段者だと聞いていた。人はみかけによらないものだと思う。確か、合気道、だったかな。

 せっかくこうして長谷川さんに出会えたので、僕は迷子の女の子のことについて訊いてみることにした。

「そういえば、あの、ユウちゃんについて何か知りませんか」

「ユウちゃん?」

「はい、迷子の――」

 と説明を続けようとしたら、なにか思い出したのか、警官はピクリと固まった。ゆっくりと得心が言ったようにして「あー、まあ、なんというか非常に残念なこととは思うが」と応えてくてた。「そうか、それでスグル君は今日」とかなんとか語尾を濁して何やらを呟いていた。

 何ですか、と訊こうとした折「まあ、落ち込むんじゃないぞ。それじゃ、本官はこれで」と自転車にまたがって行ってしまった。制止する暇もなかった。

 ここでもなぜか意思疎通の間に誤解が挟まってしまっていたようだった。

 何だったんだろうか?

 気にはなったけど、こうしている間に、その迷子である本人とはぐれてしまう危惧に思い至り、急いで僕は坂を下っていった。


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