第9話 処遇
◆◆◆
(で……なんで俺はまた捕まってるんだ?)
人間オークション壊滅から数週間後。
場所は変わり、天輪の鷹爪団本部の一室に、捕らわれていた。
壁や天井の境目が分からない程、純白の空間だ。
そこに、前髪の長い女と一緒にいる。
勿論、同じ空間ではなく、結界魔法で隔てられているが。
前髪女は一定の間隔で外に出る。多分、トイレとか飯とかだ。
前髪のせいで、いつ寝ているのかわからない。
それでも朝から晩まで、この結界は、維持され続けている。
この結界は強力だ。全力の攻撃でも、壊せないだろう。
近付き、結界を軽く叩く。
これだけの結界魔法を数週間も出し続けるなんて、非合理的だ。
「……なあ、前髪」
「あなたとの会話は許可されていない。私はリーリー。前髪と呼ばないで」
許可という言葉に、ゴーダの顔が脳裏にチラついた。
そうだ。あれからゴーダが、ここに来ていない。
せっかく人間オークションの壊滅に協力したのに、この仕打ちはなんなのだろうか。
「知らん。ゴーダを呼んでこい」
「何故。あと、団長を呼び捨てにしては駄目」
「うるさいな。俺は騎士団の人間じゃない。誰をどう呼ぼうと、俺の勝手だろう」
リーリーの返しを待つが、何も言わなくなった。
本格的に、無視し始めたらしい。
アンデッドだから、飯も排泄も必要最低限でいい。
だからと言って、暇潰しもなくずっとここに閉じ込められるのは、かなり苦痛だ。
仕方なく、目の前に座っているリーリーを観察する。
乳白色の髪の毛は、手入れはしていないのかボサボサだ。
天輪の鷹爪団の証である水色のマントは、ほころび一つない。美しい状態を保っている。
身長は低く、一見幼く見えるが、胸には立派なものがついていた。
視線が気になるのか、今まで動かなかったリーリーが少し横を向いた。
「見ないで。気持ち悪い」
「他に見るものがないんだ。白い壁を見るより、お前を見ていた方が幾分かましだ」
「……知らない」
なら、勝手に見させてもらう。
そのままじっと観察していると、居心地が悪くなってきたらしく、落ち着きがなくなった。
指をいじり、体を動かし、顔が左右に動く。
その拍子に、前髪の向こうにある目が見えた。
燃え盛るような、緋色の瞳だ。
白い髪に、赤い目。まるで……。
「ウサギ……」
「ッ」
前髪を押さえ、急に立ち上がった。
顔の下半分から首が赤い。見られたのが、相当恥ずかしいらしい。
「気にしていたのなら、謝る。すまん」
「べ……別に……」
本当は直ぐにでも、ここを離れたいのだろう。空気でわかる。
だが団長の命令を遵守し続けるリーリーは、またその場に座り込んだ。
無言の時間が流れる。
その間もリーリーを観察し続けた。
(まるで、捕らえたウサギを見ているみたいだ。捕らわれているのは、俺だけど)
珍しく自虐をしていると、急に第三者が現れた。
ゴーダと、おらついた長身の男だ。
リーリーは立ち上がり、団式の敬礼なのか、左胸に手を当てて頭を下げた。
ゴーダもそれに答礼し、ニカッと笑って結界の縁まで近付いてきた。
「いやー、すまんなレクス。待たせた待たせた。リーリー、結界を解いていいぞ」
「了解」
リーリーが手を叩く。
弾ける音と共に、結界が薄れて消え去った。
久々に広くなった空間に、清々しさを覚えるが……それよりもゴーダへの怒りが勝った。
「ゴーダ」
「お、怒るなって。悪かったと思ってんだ、マジで」
「なら理由を話せ」
そんなレクスの言葉遣いに、輩が睨みつけてきた。
「おうコラテメェクソアンデッドコラ。オヤジに向かってその口の利き方はなんだコラオラオォ?」
「やめろクロブレート」
「うっす」
クロブレートと呼ばれた男が、ゴーダの一言で引き下がった。
相当信頼されているらしいな、ゴーダは。
「悪いな。血の気の多い奴で」
「気にしていない。それより、俺を閉じ込めていた理由は?」
「協議をしてたんだ。レクスの処遇について」
処遇という言葉に、ピクっと反応した。
(まさかこいつら、俺を殺す気か……?)
アンデッドだから、死ぬことはない。
けど、素直に攻撃を受ける義理もない。
ゴーダから距離を取ろうとすると、快活に笑って肩を組んできた。
ずっしりと重い。逃がさない、とでも言うようだ。
そのまま部屋を出て、長い木造の廊下を歩く。
「安心しろって。変なことはしねーし、もう他の団員も納得済みの結論だからよ」
「……本当か?」
クロブレートは、まだこっちを睨んでいる。
今にも噛みついてきそうなくらいの獰猛さだ。
「ケッ。俺は許してねーっすよ、オヤジ」
「悪いな。けど俺の下した決断には、素直に受けるじゃねーか」
「恩人に逆らうような不義理はしねーんすよ、俺ァ」
もう諦めたのか、クロブレートは目を逸らした。
歩くこと数分。途中にある巨大な扉の前に立ち止まる。
中から複数人の気配を感じる。騎士団の面々がいるようだ。
リーリーとクロブレートが左右から扉を開ける。
5人の男女が、一斉のこっちに視線を向けた。
楽しそうにする者。訝しげにする者。興味なさそうな者。様々だ。
それでも全員、一寸の狂いもなく敬礼をした。相当、鍛えられているな。
「みんな、紹介しよう。こいつはレクス。今日から俺らの仲間だ。よろしくやってくれ」
「「「ハッ!!」」」
全員の声が揃う。
が……聞き捨てならない言葉に、耳を疑った。
「……どういうことだ?」
ゴーダは歯を見せてニカッと笑うと、レクスの頭を乱雑に撫でた。
「どうもこうも、今日から俺の部下ってこと。ま、決定事項だ。頼むぜ、本当!」
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




