第8話 判断
触手が、近くに転がっている司会の遺体も食い漁る。
まだ食べ足りないのか、餌を求めて触手を伸ばした。
恐らく、この数ヶ月間の飢えを癒したいという願いも混じっているんだろう。
「リラン……りらん……りら……りら……りら……りらりらりらりらりらりらん……り、ら、ん……」
双子の体は、食えば食うほど急成長している。
2人の肉体が渦を巻いて合体し、醜悪な姿に変わっていった。
本来の祈りや願いであれば、他者を攻撃することはない。
だがミランの中の想いは、リランを殺された『憎しみ』と、満足に飯を食えなかった『空腹』で満たされている。
だから、こんなにも攻撃的な変化を生んだのだ。
ここまで体が変貌すると……もう助けられない。
放置していると、この場にいる全員を喰らい尽くすまで止まらないだろう。
いや、肉を求めて外に出てしまうかもしれない。
なら、一思いに。
「終わらせてやる」
袖を捲った、その時。ゴーダが瓦礫の中から立ち上がった。
「いっつつ……おい兄ちゃん。いきなり蹴るなんて酷いぜ」
「悪かった。けど、ああするしか無かったんだ」
「……どーいうこった? ミランとなんの関係があんだ?」
腐愛の影響を認識できないゴーダが、首を捻る。
(誰かを護りながら戦うのは慣れてないが……やるしかない)
触手が、ゴーダに向かって伸びた。
ナイフを手に、高速で異形とゴーダの間に割って入る。
体を上下に反転させつつ、触手を輪切りにした。
鮮血が飛び散り、刻まれた切れ端が、ジタバタと暴れる。
が、直ぐに切断面は塞がり、次の触手が生えた。
「おまっ……! ミランは助けを求めて手を伸ばしてんのに……!」
「だから助けようとしてるんだ」
更に増えた触手が、鞭のようにしなり振り下ろされる。
避け、躱し、切り刻む。
なまくらのナイフだからか、直ぐに切れ味が落ちてしまった。
「チッ」
ナイフを双子に向かい投擲する。
真っ直ぐ、ミランの頭部に向かうが、触手が折り重なって防がれた。
「いやああああああああああいやああああああああああいやああああああああああいやああああああああああいやああああああああああいやああああああああああいやああああああああああ」
触手に棘が生え、暴れ回る。
既に、会場全てを覆えるほど巨大な触手と化していた。
このままじゃ、騎士団員や関係のない拉致被害者たちも食われかねない。
「面倒だな……!」
その辺に落ちていた傭兵の剣を広い、触手を切り落とす。
そのままゴーダに向かい、声を張り上げた。
「ゴーダ、手伝え! 死ぬぞ!」
「だからどういう……ッ!?」
薙ぎ払われた触手を、寸前でしゃがみこみ回避するゴーダ。
他の騎士団も、各々回避に徹していた。
「えっ!?」
「なっ……!」
「なんで、僕は……?」
「回避を……?」
(──無意識の行動か)
恐らく、双子から発せられる殺気を感じ取り、思考で判断するより早く動いたのだろう。
「わかっただろう、ゴーダ! 双子はもう正気じゃない! 俺が終わらせるッ、援護してくれ!」
「──総員! 兄ちゃんの動きを援護しろ!!」
ゴーダが触手を握り潰しながら、部下たちに命令した。
きっとゴーダは、レクスの言葉を本当の意味では理解していない。
が、今の殺気と鬼気迫る顔に、瞬時に判断を下した。
「「「「了解!!」」」」
団員は、ゴーダの言葉を疑わない。
やれと言われたら、やるのみ。
伸びる触手は死体を食い漁りながら、騎士団へ迫る。
異質な気配と殺気から、ほぼ直感でそれぞれ対応していた。
「リーリー、兄ちゃんを護れ!」
「はい! 結界魔法──《闇刻の護稜陣》」
レクスを囲うように、ハニカム構造の結界が張られる。
邪悪な意志を持つ攻撃を自動で弾く、強力な結界魔法だ。
(今の一瞬でこれを選択するなんて、流石だな)
これなら、ダメージを負わず十二分に近付ける。
右手に意識を集中し、白い光りを纏わせて走る。
向かってくる触手は、結界が弾いてくれた。
10、20と増えるが、全て無意味だ。
触手の波状攻撃を潜り抜け、双子の核へ近付く。
もう、人の形はしていない。
ギョロっとした4つの目と、空気のように「リラン……」「ミラン……」と漏らしている2つの口があるだけで、他はただの肉塊だった。
この姿になった異形は……もう助けられない。
(……ごめんな)
人知れず歯を食いしばり、光る手で肉塊に触れた。
「目を覚ませ……リラン、ミラン」
レクスの持つ権能が発動する。
眩い光りが会場を照らし、網膜を焼いた。
触手がビクビクっと痙攣すると、己自身を食うように暴れ回り、萎んでいく。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?!?!!!?!!??」
心が切り裂かれたような悲鳴が、耳を劈く。
時間にして数秒。肉塊だった双子は分裂し、2人の人の形に戻った。
「な……なんだ、今の……?」
ゴーダが耳を押えながら、呆然と辺りを見渡す。
後で説明するとして、レクスは双子に近付いた。
「……か……はっ……り……ら……」
まだ意識のあるミランが、リランに手を伸ばす。
彼女の傍に跪き、リランの手を取ってミランの胸に被せた。
目から、透明な雫が零れる。
けれど……どこか満足そうな顔で、リランも目を閉じた。
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