第6話 正体
「リラン……ねぇ、リラン……起きてよ、ねぇ……」
動かなくなってしまった姉の体を揺さぶるミラン。
表情は動かない。
けれど、目から大粒の涙が零れ落ちる。
肥満体型の貴族の男は、それを見て更に興奮したように身を震わせた。
「そうっ、そうっ、それだよそれェ……! もっとその顔を見せておくれ、私の玩具ちゃぁ~ん……!」
公衆の面前だというのに、自身のいきり立ったブツを隠そうとしない。
客の貴族たちも、大盛り上がりで拍手を送っていた。
『ほほほほほほ! おやおや145番様、ステージ上でのお手付きは禁止ですよ! でも楽しければオーケーです! ほほほほほほほ!!』
進行役の司会が、マスクの下で大笑いしながら拡声魔法で盛り立てた。
狂ったオークション会場に、狂った貴族たち。
なるほど。イかれている。
硬直していたゴーダが歯を食いしばり、拳を強く握る。
血がステージに落ち、純白の床を汚した。
「テメェッ、ふざけんじゃ──」
『伏せ』
殴り掛かろうとしたゴーダが、急にその場に倒れ込んだ。
見えない手に押さえつけられているかのように、まったく動けていない。
(この鎖か)
自身の手足を拘束している錠を見て、舌打ちをする。
恐らく貴族たちに危害を加えないよう、特定の言葉で動きを止めるものなのだろう。
司会はコツコツと足を鳴らし、ゴーダに近付く。
顔面を踏みにじり、呆れたように首を横に振った。
『駄目じゃないですか。たかが商品が、これから飼い主になるであろう方に噛み付くなんて』
「ぐっ……そ……!」
少し離れた位置から、2人を見つめる。
会場に響く雄叫び。充満する油臭さと、醜悪な臭い。
興奮からか、どこからともなく聞こえる、男女のまぐわう音、嬌声。
人の持つ負の面を煮詰めているようだ。
肥満の貴族が、ステージ上で服を脱ぎ始めた。
「ど〜しようかなぁ〜。君の前で壊れた人形をぶち犯すか、君を人形の前でぶち犯すか……悩むねぇ悩むねぇ悩むねぇ!!」
ミランは動かない。リランの死体を抱き締めたまま、ブツブツと何かを呟いている。
「やだ……やだ……リラン、起きて……目を覚まして……死なないで……やだ……1人はいや……わたしたち、ずっと一緒なの……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……いや……」
──腐愛の臭いが、鼻をついた。
「ミラン、落ち着け」
彼女に声を掛けるが、届いていない。
そうしている間にも、臭いが濃く、強くなる。
この事に気付いている人間は、ここにいない。
自身の欲望に飲まれ、狂ったように笑う化け物しかいなかった。
司会の男は腕を広げ、ステージの中央に立った。
『さあさあさあ! 余計なお邪魔が入りましたが、このままオークションを続けさせていただきます! 次の商品はこの大男! 力仕事は勿論、異種同性交配などの特殊性癖にもどうでしょうか!? 金貨5枚からスタートです!!』
始まったオークションに、次々と値が釣り上がる。
このままでは、変態貴族に買われてしまうだろう。
「ゴーダ」
未だに動けないでいる巨躯に話しかける。
「──助けて欲しいか?」
「──手伝ってくれ!!」
わかった。
右手で、左手を掴む。
息を吐き、吐き、吐き……限界まで吐き切り、思い切り引っ張る。
骨と肉が潰れる音。
腱が切れる音。
関節が外れる音。
異様で異質な音に、さっきまで盛り上がっていた貴族たちが動揺する。
悲鳴を上げる者。
内容物を吐き出す者。
失神する者。
呆然と、何が起こっているのかわかっていない者。
それらの視線を一身に受け……左手首を、捻じ切った。
鮮血が手首から飛び散るが、錠は左手から取れた。
まさかの行動に、ゴーダも目を丸くする。
だが、終わらない。
左手に意識を集中した、次の瞬間。
血が止まり、骨が膨らみ、肉が蠢き……瞬く間に、左手が再生した。
握って、開いて、動きを確認する。
全員、目を丸くして動かない。
その中で唯一、司会の男だけがぼそりと呟いた。
「あ……アンデッド……?」
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