第4話 提案
連れてこられたのは、洞窟の中にある別の鉄檻だった。
自分たち以外に6人。合計で10人がすし詰めにされている。
他の檻にも、同じく拉致された人間たちが捕まっていた。
皆、一様に目が死んでいる。
希望も何もない。死を受け入れていた。
適当に空いている場所に座る。
大男と双子も、場所がないのか近くに座った。
ちぎったシャツの布地で、さっき斬られた箇所を止血し、こちらに目を向けてきた。
「おい、兄ちゃん。さっきのはねーだろ」
「……なんのことだ」
「さっき、一歩も動かなかっただろ。駄目だぜ、ガキが襲われそうになってんのに、動かねーってのは」
双子の頭を撫でる大男。
さっきの一件で懐いたのか、双子は大男から離れようとしない。
「……あいつからは殺意を感じなかった。あれは脅しで、傷つける可能性はないと判断した。お前もわかってただろう」
「ああ。けど、だからってガキに刃を向けるような輩を無視していいってことにはならねーだろ」
「それはお前の正義だ。俺の正義は、別にある」
「かーっ、可愛くねー奴」
「男に好かれたいとは思わん」
話は終わり。そう言うように、目を閉じる。
腐愛の臭いはしない。
ここではない、別の場所か。はたまた気のせいか。
その時。檻の小さな扉から、麻袋が放り込まれた。
「商品共、飯だ」
誰も手を付けようとしない。
食ったら、死ねないからだ。
どこの誰とも知れない輩に買われるくらいなら、死を選ぶ。
懸命な判断だ。
それを許容するほど、奴らも馬鹿じゃない。
「食えって言ってるのが聞こえねェのかァ!!」
棍棒で鉄檻を殴り、怒号を飛ばす。
ここにいるのは女と子供が殆どだ。
今の脅しでビビったのか、おずおずと袋の中身を取り出し、食べ始めた。
その様子を横目で見ながら、動かない。
腹は減っていない。
否、腹が減ることはない。
レクスにとって、それは忘れた感情だった。
再び目を閉じた、その時。
顔の横に、古びたパンが置かれた。
傍には大男が立っている。
彼が持ってきたのだろう。自分の分は、二口で食ってしまっていた。
「おう、兄ちゃん。飯食っとけ。いざって時に力出ねーぞ」
「……余計なお世話だ。俺はいらない。欲しいならやる」
「ふーん……んじゃ貰うわ。後で寄越せって言っても返さねーぞ」
また、二口で食い切る大男。
これじゃあ、返すもクソもない。
また隣に座り、双子を膝に乗せながら、こちらに目を向けてきた。
「兄ちゃん、名前は? 因みに俺はゴーダってんだ。こっちの双子は、ミランとリラン。ま、仲良くやろーぜ」
双子がぺこりと頭を下げる。
何故こんな所で仲良くする必要があるのか。理解出来ない。
どうせここにいる人間たちは、別のお貴族に買われて終いだ。
黙って3人を無視する。
もう諦めたのか、それ以上を聞くことなく、3人も黙り込んだ。
◆◆◆
どれだけの時間が経っただろうか。
洞窟の中に、外の光は届かない。
いつも松明に火が灯り、昼と夜の境目がわからなくなっていた。
鉄檻の外は、常に監視が巡回している。
奴らにも会話はない。あるとすれば、飯を持ってくる奴らの声のみだ。
檻の中での会話は許されない。
寝るか起きるかの繰り返し。
ここいる人間だけじゃない。
他の檻の人間も、衰弱しているのが伝わってきた。
いくらレクスでも、これだけ何も変わらない光景を前にして、気が滅入ってきた。
「……私たち、どうなるんだろう……」
檻の中にいる1人の女性が、そう呟いた。
当然、誰しもが思っている疑問だ。
でも考えず、現実から目を逸らしていた。
それなのに……口にしてしまった。
ここに捕らわれているのは、レクスとゴーダ以外は全員、女と子供だ。
狂乱するには、十分なきっかけだった。
「パパ……ママ……」
「う……うえぇ〜んっ!」
「だしてよぉ! かえりたいよぉ!」
「やだああああああ! ああああああああ!」
そしてその狂乱は、他の檻へ伝播する。
洞窟の奥から、見張りが駆けつけてくる。
怒号。悲鳴。慟哭。嗚咽。
感情と感情がぶつかり、あっという間に悲壮の坩堝となった。
そんな事があっても、レクスは動かない。
ゴーダもやれやれと肩を竦めた。
「とんでもねぇな、ここは。多分檻だけで数十はあるぜ。そこに10人ずつ捕まってるとして、数百人の人間が捕まってるはずだ」
「…………」
「……お前に話してんだぜ、兄ちゃん」
「……俺に?」
訳が分からない。話す理由がない。
上体を起こし、ゴーダに目を向けた。
周りは阿鼻叫喚。誰も、この2人に目もくれない。
ゴーダは口角を上げ、鋭い眼光で見つめてきた。
「兄ちゃん──怪物退治に興味はねーか?」
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