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腐愛の黙示録 ~朽ちた神に呪われた世界で~  作者: 赤金武蔵


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第3話 失敗

 暗闇の森の中。

 焚き火の前に座っている、一人の男。レクスだ。


 傍には、腐った祈りによって変質した、魔物の死体が転がる。

 焼けた肉の匂いが漂う。

 ただ喰らい、焚き火を見つめた。


 焚き火の傍は明るい。

 だが、それより数歩先は漆黒だ。

 空間が歪み、淀んでいる。


 闇の中から、何かが蠢き、囁くような声が聞こえた。



「ぁ……ぁ……」

「どこ……どこ……」

「こわい……くらい……こわい……」

「ま、ま……ま、ま……」



 腐愛で歪んだ者は、光りを極端に嫌う。

 火を点けていれば、奴らが近付いてくることはない。


 肉で腹を膨らませ、剣を傍に置いて、岩に背を預けた。


 昼間に終わらせた子は、まだ親の愛を受けていた。

 だから増殖していたが……こいつらは違う。


 自分を愛してくれる者がいない。

 自分の為に祈ってくれる者がいない。


 結果として、これ以上は増殖しない。

 いつかは終わらせるとして、今は放置でいい。

 一つ一つを相手にしていたら、体がいくつあっても足りない。



「ひと……ひと……」

「はぐ……はぐしてぇ……」

「あたためてぇ」


(……この声も、聞き飽きた)



 けど、夜の内は満足に眠れない。

 夜明けまで、火を絶やさずに全方位へ集中し続ける。


 できなければ、奴らに食われるだけだ。


 レクスを囲う亡者の群れ。

 見えなくても、音と気配でわかる。

 片手で数えきれない程だ。


 浅い呼吸を繰り返し、火に薪をくべる。


 そうしていると、森全体が薄っすら白んできた。

 少しずつ、怪物たちは暗闇の中へ逃げ込んでいく。


 あぁ、ようやく眠れる。


 剣を立て掛けたまま、レクスは浅い夢へ落ちていった。



   ◆◆◆



(失敗した)



 揺れる鉄檻の中、深いため息を着くレクス。


 まさか目が覚めたら……人攫いに捕まっているとは。


 腕と足には、分厚い錠がかけられている。

 破壊は難しそうだ。


 周囲を見渡すと、自分以外に3人の男女がいた。


 力強く、屈強な男。目を閉じてどっしり構えている。

 姉妹なのか、寄り添って泣いている女児たち。恐らく10歳前後だ。


 鉄柵に体を預け、上を向く。

 気づいたら檻の中だなんて、笑えない。


 鉄檻の周囲は、分厚い布で覆われている。

 恐らく馬車に乗せられているんだろう。そろそろケツが痛くなってきた。


 荷物はない。全部取られたみたいだ。


 暗幕の隙間から外を見る。

 馬が1頭。乗っている人間と、歩いているのも合わせると3人。

 恐らく御者もいるだろう。最低でも4人いる。



(……面倒くさい。なるようになるか)



 何も考えず横になり、目を閉じる。


 その時、「おい」と男に呼び掛けられた。



「お前、落ち着いてるな」

「……慣れてるからな、こういうの」

「拉致に慣れてるとか、どういう人生だよ」



 まあいい、と立ち上がり、こっちに近付いてきた。


 揺れる馬車の上なのに、動きに無駄がない。かなりの強者だ。



「お前さん、今どうやって逃げ出すか考えてただろ。外の戦力も確認してたな」

「……確認しただけだ」

「てことは、やろうと思えば出られるんだな?」



 逃げたいから手伝え、とでも言われそうだ。


 答えず、目を閉じる。


 が、思いがけない言葉が返ってきた。



「なら、動くな」

「……は?」



 意味がわからず、目を開ける。

 男は仁王立ちのまま、真剣な目で見下ろしていた。



「俺には俺の目的がある。終わるまで、動くな」

「……勝手にしろ」



 どうせ、逃げるつもりもない。


 男は言いたいことを言って満足したのか、定位置に戻って座り直した。


 どうせ、いつでも逃げられる。

 なら怪物のいない今は、ゆっくり寝かせてもらおう。


 馬の蹄鉄。馬車の車輪。双子のすすり泣く声を子守唄に、レクスは深い眠りについた。






 突然、暗幕が開いた。


 暗がりの向こうに、松明の灯りが見える。

 夜ではない。どこかの洞窟のようだ。


 ガラの悪い輩が、鉄檻の鍵を開けて顎で出るよう指示した。


 最初にレクス。次に大男。最後に双子が降りる。


 直ぐに辺りを観察する。

 怪物の姿はない。腐愛の臭いもない。


 広い洞窟に、ずらりと並んだ馬車。

 あちこち行き来する輩と、指示を出しているジェントルな男たち。


 自分たちを攫った輩は、金を受け取ってさっさと行ってしまった。

 どうやら、人攫いとスーツの男たちは別の組織らしい。



「お前ら、来い」



 スーツの男と、剣を携えた傭兵が、洞窟の奥へ進む。

 仕方なくついて行くと、後ろで双子が泣き始めた。



「うえぇん……!」

「かえりたいよぉ……ぱぱぁ、ままぁ……!」



 心細さと恐怖が抑えきれず、口から漏れ出たようだ。


 当然、奴らはそれを看過しない。


 傭兵の1人が、剣を抜いて少女たちに向かい振り上げた。



「「ひっ……!?」」



 冷たい刃が、松明の灯りを反射する。

 傭兵は容赦なく、2人へ剣を振り下ろし──。


 双子の悲鳴に、いち早く大男が動いた。


 大木のような腕で刃を防ぐ。

 肉の厚みか、筋肉の硬さか。深手にもならず、受け止めた。



「おいおい、まだガキだぜ。そんな物騒なもん出すんじゃねーよ」

「黙れ。商品は大人しくしてもらわないと困る」

「だったらしまえ。脅しとは言え、ガキに刃を向けんな」

「……ふん」



 刃に着いた血を振り落とし、鞘にしまう。


 今この男は、商品と言った。

 つまりここは、人身売買に使われているという事だ。



(もし俺の体の事がバレたら、面倒だな)



 今は大人しくしておくのが吉だ。


 大男は双子へと振り返り、それぞれの頭を撫でた。



「大丈夫だ。ここにいる間は、兄ちゃんが守ってやっから」

「ひっく……ぅぅぅ……!」

「ぁり、がと……おじちゃん……!」



 双子が大男の胸に飛び込む。


「おじちゃんって歳じゃないんだがな……」と独り言ちり、双子を抱き上げた。


 これだけ騒いでも、周囲の人間は動じない。

 こんなことは、ここでは日常茶飯事のようだ。


 3人を横目に見て、特に感情も動かず前を向く。


 こいつらのことは、今はどうでもいい。


 ──腐りかけの臭いが、どこからか漂っていた。

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