表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐愛の黙示録 ~朽ちた神に呪われた世界で~  作者: 赤金武蔵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

第1話 神は死んだ

 最初に腐ったのは、【祈り】だった。



「……あれ?」



 少女は、ただ両手を組んでいただけだ。

 いつもと同じように、いつもと同じ言葉を、神に捧げていただけなのに。


 胸の奥に灯るはずの温もりが、ない。


 代わりに広がっていくのは、ぬるりとした違和感だった。

 まるで、何かが内側から滲み出してくるような。


 指先が、黒ずむ。


 爪の隙間から、じわりと濁った色が滲み、皮膚の下で何かが蠢く。


 痛みはない。ただ、理解が追いつかない。



「……え、なに、これ……?」



 声が震える。

 だが、それを聞いた仲間の顔が、次の瞬間に歪んだ。


 少女の足元から、腐臭が立ち上る。


 花が枯れる。

 石が崩れる。

 祝福されたはずの聖域が、音もなく死んでいく。


 そして気づく。


 自分が、中心だと。



「やだ……やだ、やめて……!」



 祈りは、誰かを救うためのものだったはずだ。


 それなのに今、彼女の祈りは、触れるすべてを腐らせていく。


 止め方は分からない。逃げ場もない。


 ただ一つ、はっきりしていることがある。

 これは、奇跡なんかじゃない。


 ──少女が祈った、願いの成れの果てだ。



   ◆✕✕✕✕年後◆



 この村から、腐敗の臭いがする。


 小高い丘の上。男は鼻を鳴らし、風に混じる腐敗臭に目を細めた。


 村全体を見渡す。

 畑では男と女がひたいに汗を流し、子供たちも小さな仕事を手伝っていた。


 豊かでのどかな光景が、妙に気味が悪い。


 誰も、この臭いを気にしていなかった。


 そっと息を吐き、丘から村へ降りていく。

 近づくに連れて強まる臭いに、顔をしかめる。


 村に入ると、近くを通りかかった老人が顔を上げた。



「おや、見ない顔だね。旅人さんかい?」

「……似たようなものだ」

「そうかい。遠路遥々、お疲れじゃろうて。ゆっくりしていきなさい」

「いや、用事が済んだら直ぐに発つ。……この村に、化け物はいないか?」



 急に吹いた突風が、砂埃を巻き上げた。


 老人の被っていた麦わら帽子が風で飛ばされる。

 だが気にしていないのか、張り付けたような笑みを崩さなかった。



「ばけもの……いいや、この村でそんなものは見ていないのぅ」

「……そうか」



 ひっそりと、奥歯を噛み締める。


 やはり、認識の外か。



「……では、ここ最近で聖女を名乗る女が訪ねて来なかったか?」

「おおっ、聖女様。ええ、ひと月ほど前に。病に侵された村の子供を、奇跡で救ってくれたのじゃ。本当、素晴らしいお人じゃよ」

「子供……案内してほしい」

「うむ、こっちじゃ」



 老人に連れられて、村の中を進む。


 子供たちがチャンバラをし、主婦たちが穀物を仕分けている。


 どこにでもある、平穏な村。

 だが……この臭いは、どうしても慣れない。


 老人が、一軒の家の前で止まる。

 他の家と変わらない、小さい家だ。



「おーい。リーネちゃん、いるかーい?」



 老人の声に、中から女性の返事が聞こえた。


 戸が開くと、疲れなのか少しやつれた女性が出て来た。


 あの臭いも強くなる。ここで間違いない。



「こんにちは、ゴンドさん。……そちらの方は?」

「旅人だそうだ。どうやら、聖女様の奇跡を見たいとのことでな。ルーマちゃん、今大丈夫かの?」

「まあ、そうでしたか。どうぞ。ルーマも喜ぶと思います」



 余程嬉しいのか、華やかな笑顔で招き入れた。


 老人に続いて中に入る。

 食事の準備をしていたのか、キッチンには捌かれた動物が横たわり、死んだ目がこっちを見ていた。


 母親がリビングと奥の部屋を隔てる扉を開く。


 ――同時に、ぬめっとした空気が、床を這って漏れ出した。



「ルーマ、お客様よ。大丈夫?」



 優しい声色で、子供に話しかけた。


 男も戸を潜ると、空気が淀んでいた。


 湿り気を帯びた暗がりが、肺の奥に纏わりつく。

 窓は閉ざされ、光は細く裂けた隙間から僅かに射し込むだけだった。


 床板がぬかるんでいる。


 踏み込んだ足裏に、じわりと嫌な感触が返った。

 水でははい。もっと粘り気のある、温度を薄内キレていないもの。


 その先、部屋の中央にそれはあった。


 肉だった。


 ただの肉塊。

 だが、無造作に積み重なった赤黒い塊の中から、小さな腕が何本も突き出ている。

 指は幼く、爪は薄く、まだ成長しきっていないそれが、無秩序に宙を掻いていた。


 まだ、生きている。



「……まま……」



 潰れた声が、肉の奥からにじみ出る。



「……まま……まま……」



 繰り返される音は、言葉と呼ぶには余りにも歪で。

 それでも確かに、意味だけは残していた。



「ええ、ママよ。ママはここにいるからね」



 リーネは床に膝をつき、聖母のような微笑みで肉塊を抱き締めた。


 ゴンドも目に涙を浮かべ、肉塊を撫でている。



「この子は不治の病に侵されておってなぁ。命の炎も尽きかけていた。しかし聖女様が、この子の為に祈りを捧げてくださったのじゃ。するとどうじゃッ!」



 突然バッと顔を上げ、興奮気味に声を張り上げた。



「病は消え、こうして生きている……まさにっ、奇跡じゃ……!!」



 リーネも目尻に涙を浮かべ、頬を紅潮させて笑った。



「あぁ、聖女様……感謝してもしきれませんわ。こうして、子供と楽しく生活できるのですから……!」



 ――狂っている。


 2人の様子に、男は小さく嘆息した。



(やはり……この人たちも(、、、、、、)か)



 もう何人も、こうして奇跡を妄信している人に会ってきた。


 いや……妄信ではない。


 神が死んで、幾星霜。

 この奇跡が、この世界にとっての当たり前なのだ。



「2人は、これが生きていると、本気で思っているのか?」



 問いかけに、2人が黙ってこっちを凝視してきた。



「人の姿を保っていないこれは、本当に人か?」

続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!


下部の星マークで評価出来ますので!


☆☆☆☆☆→★★★★★


こうして頂くと泣いて喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ