丙 .【 絶唱 】
コトシロが、その「顔」のない口を開く。
放たれたのは、一個人の発声ではない。
空洞の中で無数の石の舌が擦れ合い、
互いの恨みと悲しみを研磨し合う、
**「集合体の絶唱」**であった。
幾千の子供たちが、
同時に泣き、同時に笑い、
同時に呪い、同時に悶える
「多重の不協和音」。
それは鼓膜を震わせるのではなく、
魂の深部を直接揺さぶり、
脳髄を沸騰させるような暴力的な聖歌だった。
「有馬蓮さま。
私は、一個の存在ではありません___。
私は、この国が四百年にわたって吐き捨ててきた
**『清算されぬ負債』の総体**。
九地無の里に捨てられ、石となった者たちの、
**『静かなる総意』**なのです」
コトシロの体から、
微細な石灰の粉が雪のように零れ落ちる。
彼の纏う黒いスーツは、
歴代の生贄たちが最期に
身に付けていた衣類の繊維を、
呪いの黒糸で編み上げたもの。
その指先は、
絶望のあまり自ら指を噛み切った者たちの
骨片を繋ぎ合わせたもの。
彼は、この国が美しさを
保つために切り捨てた「ゴミ」を、
強引に形に留めた現象そのものだったのだ。
「私たちは、
あなたを憎んではいない。
ただ、私たちはあまりにも重すぎるのです。
この国の平穏を保つには、
誰かがこの『重み』を引き継がねばならない。
私たちがかつてそうされたように。
……そして、あなたが今、そうなったように」
コトシロが笑った、と蓮は感じた。
空洞の中の無数の舌が、一斉に不気味な震動を上げ、
かつてハクが発したはずの「鈴を転がすような美声」を
何重にも重ねて、最後の一撃を蓮の精神に叩き込む___。




