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朱色のゲートウェイ ー祝詞ー  作者: 此花 陽


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2/2

乙 .【 曼荼羅 】


 コトシロは答えない。


 ただ、ゆっくりとその右手を、

 白鷺色の陶器のように冷たく、

 無機質な質感の「狐面」へと掛けた。  


 それは「正体を暴く」といった

 乱暴な挙動ではなかった。


 それは、御簾みすを上げるかのように、

 あるいは聖域の帳を静かに開くかのように、

 極めて典雅てんがで、逃れようのない儀礼であった。


 ――パキィ、と。


 薄氷が割れるような乾いた音が、

 静寂のスタジアムの隅々まで響き渡り、

 二つに割れた面が、蓮の流した朱色の

 血溜まりの中へと音もなく落ちた。  


 刹那、蓮の視界が「白鷺色」の閃光に塗り潰される。  


 そこに現れたのは、人間の顔ではなかった。



「……っ!?」



 蓮の左目が、驚愕に凍りつく。

 

 面の裏側にあったのは、

 無限に続くかのような漆黒の空洞。


 そしてその空洞を埋め尽くしていたのは、


「九地無の神体」


 ――幾千、幾万という**「石化した舌」**の群れであった。  


 江戸時代のハクに始まり、

 明治、大正、昭和、そして平成。  


 九地無の里で、

 この国の「平穏」という名の嘘を守るために、

 声と自由を奪われ、根元から焼き切られてきた

 歴代の生贄たちの舌が、そこにはあった。  


 それらは曼荼羅まんだらのように

 幾何学的な紋様を描いて積み上げられ、

 まるで意思を持つ土塊のように、

 空洞の中でうねり、脈動していた。


 一つ一つが、四百年の間、

 この国に捧げられた無名の

 少年少女たちの「声の墓標」であり、

 熱を帯びた朱色の燐光を放ちながら、

 冷たい石灰の熱を放っている___。



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