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悪役令嬢、今日も辺境でキャンプ防衛 ― 焚き火の火は消さないけれど、戦意はよく消える ―  作者: 南蛇井


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Scene 9:合言葉と掟(結束)

 夜。

 焚き火の火が丸く輪をつくっていた。

 その周りに、十を超えるテントが並び、

 木々の間から月がのぞいている。


 スープの香りと、ほんのり焦げたパンの匂い。

 虫の声が遠くで響き、

 誰かの笑い声がゆるやかに混じった。


 ――特に何を決めるでもない集まり。

 それでも、人は火を囲めば話を始める。


「なあ、俺たちは……いったい何者なんだ?」


 焚き火の向こうで、放浪学者が呟いた。

 その隣では、元料理人がスプーンを回し、

 精霊信仰者が火をじっと見つめている。


 エリザベート(中身おじさん)は薪を組み直しながら言った。


「さあな。肩書きも、目的も、ここじゃ関係ない。」


「じゃあ、せめて“掟”くらいは作っておこう。」

「掟?」


 皆が首をかしげる。

 焚き火の火が、ぱちんと音を立てた。


「そうだな……まず、“火を絶やすな”。」


 レオン(放浪騎士)が言う。

 真面目な顔で、薪を一つ足した。


「ああ、それ大事だ。あと、“飯を焦がすな”。」


 エリザベートが続けると、

 料理人が深く頷いた。


「……重い言葉だ。」

「焦がすと鍋洗いがつらいからな。」

「現実的だな。」


 静かな間。

 焚き火の火が、誰かの笑い声に合わせて揺れた。


「火を絶やすな。飯を焦がすな。」


 誰が言い出したともなく、その言葉が繰り返される。

 笑いながら、真顔で、また笑いながら。


 それは、冗談のようでいて――

 どこか、祈りにも似ていた。


 その夜、正式な結成宣言も、証書もなかった。

 誰がリーダーでもなく、誰も命令を下さなかった。


 けれど、翌朝には、誰からともなく薪が積まれ、

 鍋がかかり、煙がまた空へ昇っていた。


「これが“ギルド”ってやつか。」

「名前なんて後でいい。火があるなら、それで十分だ。」


 ウサギのマルシュが、その輪の真ん中で丸くなる。

 その姿に、みんなが自然と笑った。


 こうして、“キャンプギルド”は生まれた。

 誓いも、旗も、金もない。

 ただ、火と飯と、のんびりした連帯感があった。


「……なあ、“焦がしたとき”はどうする?」

「全員で責任を取る。」

「つまり?」

「おかわりなしだ。」


 焚き火が爆ぜて、笑い声が森に広がる。

 夜は深く、火は穏やかに燃えていた。

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