Scene 6:夜の語らい ――火は言葉を持たない。けれど、人を黙らせる力がある。
焚き火が、静かに揺れていた。
パチ、パチ、と薪がほどける音が、森の夜を満たす。
風が枝を鳴らし、遠くでフクロウが一度だけ鳴く。
空には星が散りばめられ、天幕のように森を包んでいた。
エリザベートはその下で、
膝を抱えながら、ゆっくりと火を見つめていた。
「人間って、群れると面倒なことばっかり考えるけど……
こうして火を見てると、どっちでもよくなるんだよな。」
ウサギのマルシュが、焚き火のそばで丸くなる。
その小さな背中に、橙の光が柔らかく映える。
「そうそう、お前みたいに単純でいいんだよ。
食べて、寝て、火のそばであったかくして。」
ウサギは「ピッ」と鼻を鳴らし、耳をふるわせた。
それが肯定なのか否定なのかは、誰にもわからない。
やがて彼女は立ち上がり、
焚き火の明かりを背にしてテントに戻る。
中では、寝袋がふかふかに敷かれ、
ランタンの光が小さく滲んでいる。
テント越しに見える焚き火の影は、
ゆっくりと揺れて、呼吸しているようだった。
「焚き火の火は、誰のものでもない。
ただ、寒い人が寄ってくるだけ。」
静かにそう言って、寝袋にもぐりこむ。
森の音が、遠くで子守歌のように続いていた。
──その夜。
森のずっと奥。
別の焚き火が、一つだけ灯っていた。
古びたマントを羽織った放浪の騎士が、
剣を膝に置きながら、同じ星を見上げていた。
風が吹き、火の粉が夜空へと舞う。
その一つが、森の上でふわりと光り、
まるで遠くの焚き火と、互いに挨拶するように瞬いた。
火の粉がひとつ、星に溶ける。




