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Scene 57:煙の向こうに、同じ空
王都の広場にも、辺境の森にも、
ゆらゆらと白い煙が立ちのぼっていた。
それは戦の狼煙ではない。
人々が囲み、語り、笑い合う――“平和の焚き火”の煙。
風がゆるやかに流れ、二つの煙が空の高みでひとつに混ざる。
どこからが王国で、どこまでが森なのか。
もう、誰にもわからない。
エリザベートは焚き火を見つめながら、静かに微笑んだ。
「火を消さなかった。それだけで、もう十分。」
同じ頃、王都の塔の上でリゼットが夜空を見上げる。
遠くに、かすかに光る煙の帯。
彼女はそっと呟いた。
「……焚き火の煙って、国境を越えるんですね。」
風がその言葉を運び、森へと届く。
まるで空そのものが、焚き火の香りに染まったかのように。
焚き火が照らしたのは、国境ではなく“心の距離”だった。
剣で築けぬ平和を、ひとつの火が作り出す。
――こうして、歴史上初の「焚き火外交」が成立した。
そしてその夜もまた、誰かが笑いながら、マシュマロを焦がしていた。




