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悪役令嬢、今日も辺境でキャンプ防衛 ― 焚き火の火は消さないけれど、戦意はよく消える ―  作者: 南蛇井


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Scene 5:野ウサギとの遭遇 ――世界の始まりは、いつだって火と匂いから始まる。

スープが、静かに泡を立てていた。

 鍋の中でハーブの葉がくるくると回り、香りが夜風に溶けていく。

 星が増え、森が深く沈みはじめるころ。


 ――カサッ。


 小さな音に、エリザベートの耳が動いた。

 焚き火の向こう、草の間がふるえ、

 そこから、白い影がそっと顔を出す。


 一匹の野ウサギ。

 目をぱちくりさせながら、こちらを見つめている。


「来たか。匂いに釣られたな。」


 まるで古い友人を迎えるような口調。

 ウサギは一瞬ぴくりと耳を立て、

 だが逃げる気配はなかった。


 エリザベートはしゃがみこみ、鍋を軽くかき混ぜる。

 ゆったりとした手つき。

 魔法の炎が穏やかに揺れ、湯気が金色に光る。


「大丈夫。塩分は控えめだ。」


 そう言って、木の皿を取り出し、

 スープを少しだけ分けて地面に置いた。

 トン、と音がして、湯気がふわりと立ち上る。


 数秒の沈黙。

 そして、ウサギが一歩、また一歩と近づく。


 鼻先をひくひくさせ、

 慎重に皿を覗き込み、ぺろり。


 次の瞬間、夢中でスープを飲みはじめた。

 口元にちょっと泡をつけながら。


「……はは、うまいか。」


 焚き火の光が、エリザベートの頬を照らす。

 その顔には、

 “人間の領分を超えた幸福”があった。


「……あぁ、やっぱり、これが正しい夜の過ごし方だな。」


 彼女は火を見つめながら、静かに呟く。

 スープの香りと、森の湿気と、動物のぬくもり。

 世界がちょうどいい温度で混ざっていた。


 遠くで風が鳴る。

 葉がそよぎ、火の粉がひとつ、夜空へと登っていく。


 ――この夜の出来事は、後にこう語られる。


「ギルド創立の日。

その最初の会員は、名もなき野ウサギであった。」


 名をマルシュ。

 初代ギルドメンバーNo.0。

 焚き火のそばに、いつも静かに座っていたという。

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