Scene 45:風と火の協定
翌朝――。
森の空気が、いつもと違っていた。
葉の揺れ方、鳥の鳴き声、そして……焚き火の煙の流れ。
まるで見えない手が導くように、煙は人のいない方向へすっと消えていく。
放浪学者:「……おかしい。風向きが一定すぎる。自然じゃない。」
エリザベート:「自然が“本気を出した”んじゃない?」
木々がざわめき、枝の先で朝露が光る。
その合間を抜けるように、風の精霊がひょっこり現れた。
精霊:「おまえたちの火、気に入った。
風が息を合わせてやる。煙は森の邪魔をしないように流すさ。」
その声は、木の葉をくすぐるように軽やかで――
聞いているだけで、森全体が深呼吸しているような気がした。
焚き火の炎が、朝の光に包まれてゆらめく。
湿気の多いはずの空気が、不思議と軽い。
まるで森そのものが、火の呼吸に合わせているようだった。
エリザベート:「……つまり、自然防衛システムの完成だね。」
精霊:「ふふん、人間のくせに言葉が難しいな。
風はただ、“仲良くしてる”だけだよ。」
森のあちこちで焚き火の煙が上がる。
どれも風に導かれ、空へと美しく伸びていった。
放浪学者は感嘆の息を漏らす。
学者:「これはもう……森ぐるみの防衛協定ですね。」
エリザベートは笑って頷いた。
その横で、ウサギのマルシュが薪の上でぐうぐう寝ている。
マルシュ:「すー……(昼寝中)」
風が彼の毛をやさしく撫でた。
火と風、森と人。
そのすべてがひとつの呼吸で繋がっていた。
――こうして、“焚き火ギルド”は自然と共に息づく新たな防衛線を手に入れた。
誰も命令せず、誰も支配しない。
ただ、森が“気に入った”から。




