Scene 44:焚き火哲学対談
夜の森。
星が瞬き、焚き火が静かに音を立てている。
炎の向こう側――風の精霊が、ふわりと腰を下ろした。
その身体は相変わらず透けていて、姿よりも“存在”だけがそこにあるようだった。
精霊:「……おまえたち、人間は不思議だな。
火を恐れながら、火を飼いならしてる。」
焚き火の光が、精霊の輪郭をゆらめかせる。
エリザベートは、マグカップを両手で包みながら小さく笑った。
エリザベート:「飼ってるというより、友達になりたいだけだよ。
火も、風も、水も。喧嘩しない距離でね。」
精霊は首をかしげる。
その仕草は風が木の葉を揺らすように自然だった。
精霊:「でも、火は奪うものだと思っていた。
木を焼き、風を焦がし……森を壊す。」
エリザベートは、少しだけ焚き火を見つめる。
赤い光が瞳の奥に映り込み、ゆっくりと返す。
エリザベート:「奪うこともあるけど、照らすこともある。
寒い夜、誰かの凍えた心を温める。
それも、火の仕事じゃないかな。」
精霊の表情が、風のように揺れた。
炎がぱち、と弾け、二人の間に淡い火の粉が舞う。
精霊:「……おまえたち、人間のくせに優しいな。」
エリザベート:「人間だから、火が好きなんだと思う。」
一瞬、風が止まった。
森が静まり返り、ただ焚き火の音だけが響く。
ぱち、ぱち――。
その音が、言葉よりも深い“信頼”の証のように感じられた。
精霊はそっと目を閉じ、風の指先で炎を撫でた。
炎は穏やかに揺れ、まるで返事をするかのように小さく膨らむ。
精霊:「……燃やすって、あたたかいんだな。」
夜風が優しく流れ、焚き火の煙を遠くへ運んでいった。
二人の間に、言葉のいらない静かな時間が流れていた。




