Scene 40:帰還報告と論文提出
王都、王立魔術学院。
荘厳な塔の上層、魔力結晶の光が冷たく揺れる研究室。
扉が開き、リリィが戻ってきた。
以前よりも表情が柔らかく、手には分厚い報告書が一冊。
教授:「リリィ=アークライト、辺境調査からの帰還を確認した。
では――報告書の提出を。」
リリィ:「はい。こちらが、わたしの卒業論文です。」
教授が表紙を読み上げる。
教室の空気が、一瞬で静止した。
『キャンプは最強の魔術体系 ― 焚き火共鳴理論の実証報告 ―』
……沈黙。
魔法理論科の学生たちが顔を見合わせる。
教授の手がプルプル震える。
教授:「……か、キャンプ?」
リリィ:「はい。
理論ではなく、呼吸と炎の共鳴による魔力安定。
実際に“火の瞑想”で魔力の暴走を抑えられました。」
後ろの助手が小声でつぶやく。
助手:「……なんか……健康にもよさそうですね……」
教授が机を叩く。
教授:「原始的だ! 学問を何だと思っている!」
リリィ:「焚き火を、ですか?」
教授:「違う!……いや、そうだが……!」
――混乱。
その後、論文は上層部によって「再審査行き」とされた。
だが――
数日後、学生寮の掲示板にはコピーされた論文の一部が貼られていた。
「焚き火呼吸法の実践報告」「虫除け草ブレンド表」など、実用性が高すぎたのだ。
学生A:「これ、実験室でやったら超集中できたぞ!」
学生B:「次の試験、“キャンプ形式”でやらない?」
学生C:「俺、焚き火係やる!」
その熱気は、やがて一つのクラブへと形を変える。
――王立学院・キャンプ部、誕生。
リリィは窓の外でその噂を聞きながら、静かに微笑んだ。
「あの森の火、ちゃんと届いたんだ……」
彼女の瞳に映るのは、遠くの焚き火の記憶。
学院の冷たい塔に、あたたかな風が吹き込む。
そして、この一文で論文は締めくくられていた。
“魔法とは、理屈でなく――温もりである。”




