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悪役令嬢、今日も辺境でキャンプ防衛 ― 焚き火の火は消さないけれど、戦意はよく消える ―  作者: 南蛇井


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37/58

Scene 37:潜入、焚き火の地へ

――王立学院、主席魔術師リリィ・ハーゲン。

任務:辺境の“焚き火ギルド”潜入調査。


冷静沈着、理論主義、感情に支配されぬ完璧な才媛――

……だったはずなのだが。


森に足を踏み入れた瞬間。


「……っ、ぬかるみ!? あ、あああああっ!」


靴が泥に埋まり、次の瞬間にはテントのロープに足を取られ、

見事に転倒。

頭上でウサギのマルシュが首を傾げ、

その口に――彼女の草本メモ帳が半分消えていた。


リリィ:「や、やめなさいっ、それは研究資料っ!」

マルシュ:「ピィ。」(もぐもぐ)


そこに現れたのは、焚き火の赤い光の中から歩いてきた女性。

金髪、端整な笑み。

だがどこか“中身おじさん”な雰囲気をまとった令嬢、エリザベート。


エリザベート:「ようこそ、ようこそ。肩の力、抜いていいですよ。」

リリィ:「わ、私は観察に……ち、違います! 取材に!」

エリザベート:「了解。観察者さん、まずはお茶どうぞ。」


差し出されたカップから漂う香りは、

緊張を一瞬で溶かす不思議な温かさを持っていた。


気づけば、リリィは焚き火を囲む輪に加えられ、

ギルドの“生活魔法講習”に半ば強制参加していた。


「洗濯魔法の効率化」――魔力で泡立てるより、

手で押すリズムのほうが早いと教わり、軽くショックを受ける。


「火の湿度管理」――

薪と空気の“会話”で温度を測るとかいう、理論外の概念。


「虫除け草のブレンド術」――

エリザベートが言う。


「魔法で追い払うより、香りで仲良くしたほうが早いですよ。」


リリィはノートに震える手で書き込む。


『この人たち、理屈じゃなく世界を回している……!』


夜の森に焚き火の光が揺れ、

“潜入”のはずが、彼女の心はすでにほぐれ始めていた。


――こうして、王立学院主席による“ゆるすぎる潜入調査”が幕を開ける。

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