Scene 36:灰は風に還る
朝の森に、やわらかな風が通り抜けた。
昨夜の焚き火の跡から、灰がふわりと舞い上がる。
光を受けて白くきらめき、まるで小さな星々が森に散っていくようだった。
エリザベート:「燃えた後も、火は終わらない。
灰になっても、温もりは残る。」
その声は風に溶け、森中にやさしく響く。
灰の粒が草の葉に落ち、きのこの傘に止まり、
遠くの川面にまで、淡く光を残していった。
クラウス・リーベルは、荷馬車のそばで立ち止まる。
森を振り返り、微笑のようなものを浮かべる。
クラウス:「……商売も、こうありたいものだ。」
彼の言葉に、焚き火が「ぱち」と答えた。
まるで同意するように、優しい音で。
やがて馬車が動き出す。
車輪が土を踏みしめるたびに、朝の霧がわずかに揺れる。
見送るエリザベートは、マルシュを抱き上げて小さく手を振った。
エリザベート:「また、灰ができたら寄ってくださいね。」
マルシュが「くしゅん」とくしゃみをする。
それを見て、焚き火がもう一度「ぱち」と笑った。
灰のひと粒が、風に乗って王都の方向へ飛んでいく。
それはまるで、“火の恩返し”の使者のように。
章ラスト一文(締め)
焚き火は燃え尽きても、灰に魂を残す。
それは取引ではなく、贈り物だった。
こうして、“火の恩返し”が静かに始まったのだった。




