Scene 35:商会の決断
朝霧が森を包む。
焚き火の名残が、まだほのかに温かく息づいていた。
鳥の声がゆっくりと目を覚まし、森全体が一度、深呼吸をする。
その静けさの中で――
クラウス・リーベルは、ひとり焚き火の跡に膝をついた。
手には、黒い革袋。
中には、金貨の鈍い光と、一通の手紙。
クラウス(独白):「金で火を買うつもりだったのに……
結局、俺のほうが“あたためられた”か。」
彼は袋をそっと置く。
灰の上に、金属の光が反射する。
朝日と混ざって、それはまるで“新しい火”のように見えた。
クラウス:「この金で、森を守る仕組みを作ってほしい。
……火の恩に、利子をつけて返したい。」
言葉を終えると同時に、
ウサギのマルシュが袋のまわりをくるくる回る。
まるで“受け取りました”とでも言うように。
やがてエリザベートが焚き火の向こうから現れた。
寝ぼけ眼で髪をまとめながら、笑う。
エリザベート:「早起きの商人は、置き土産も粋ね。」
放浪学者:「つまりこれは、“寄付”という名の感謝契約。」
騎士:「……戦わずして心を落としたな。」
エリザベートは袋を手に取り、
手のひらの中で転がすように眺める。
エリザベート:「火の取引は失敗。
けど、心の取引は成立ね。」
ぱちり。
灰の中から、最後の火の粉が弾けた。
それはまるで、商談の“印”のように光って消えた。
森の風が吹く。
金の香りより、土と焚き火の匂いが濃くなる。
そしてその朝、
リーベル商会の名前は静かに、焚き火ギルドの“支援者一覧”に加わった。
――利益よりも、温もりで結ばれた契約として。




