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悪役令嬢、今日も辺境でキャンプ防衛 ― 焚き火の火は消さないけれど、戦意はよく消える ―  作者: 南蛇井


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34/58

Scene 34:焚き火交渉会(昼食付き)

森の昼下がり。

柔らかな陽光が木々の隙間を抜け、焚き火の炎に反射して揺れていた。

リーベル商会の隊商たちは、最初こそ緊張した面持ちだったが――

今はもう、焚き火を囲んで湯気を眺めている。


木の器から立ち上る香り。

香草スープの甘く温かな匂いが、空腹をやさしく刺激する。


クラウス:「……これは、何のスープだ?」

料理人:「森の恵みです。根菜と茸、それに少しの焚き火の煙。」

エリザベート:「味の秘訣は“焦らない火”。」


クラウスは匙を止めた。

焦らない――

商人として、そんな言葉を聞いたのは初めてだった。


クラウス:「……この味、なぜ王都では再現できない……?」

料理人:「焦らないからです。」

エリザベート:「火も、金も、急ぐと焦げます。」


焚き火が、ぱちり、と音を立てた。

その音が妙に胸に響く。


クラウスの手帳には、びっしりと数字や取引条件が書き込まれていた。

だがそのペン先は、いつの間にか止まっていた。


目の前の景色を見てしまったのだ。

光る灰、香るスープ、笑う人々。

“効率”や“利益”では測れない温度。


放浪学者:「これはもはや交渉ではなく、“火の説法”ですな。」

エリザベート:「おかわりありますよ。」

クラウス:「……いただこう。」


彼は静かに器を差し出した。

その顔には、王都で見せた冷徹な計算の影はもうない。


スープを飲むたびに、肩の力が抜けていく。

焚き火が、心の中の何かをほどいていく。


やがてクラウスは、微笑んだ。

それは、金貨ではなく――炎の揺らぎを見て生まれた笑み。


クラウス:「……火を囲むと、不思議だな。

 欲よりも、余白が増えていく。」

エリザベート:「いい取引ですね。」


森の風が吹き抜ける。

火が、静かに応えるように揺らめいた。


――その日、クラウス・リーベルの帳簿には、

新しい一行が加えられた。


「焚き火:利益なし、満足度∞」

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