Scene 33:灰の価値の発見
焚き火が静かにぱちぱちと鳴る。
その傍らで、放浪学者がいつものノートを取り出した。
炭のかけらでメモを取りながら、灰をつまんで目を細める。
放浪学者:「ふむ……この灰、ただの燃えカスではありませんね。」
エリザベート:「燃えカスって言い切られると、ちょっと切ないけど。」
学者:「いや、褒めてます。これは“魔力の余韻”です。
波動が安定している――つまり、火の記憶が残っている。」
クラウスが腕を組み、興味深そうに身を乗り出した。
クラウス:「火の記憶?」
学者:「はい。肥料に混ぜれば作物の発芽率が倍。
護符に塗り込めば魔除けの効果が出るでしょう。」
クラウス:「……商売になる。」
彼の声がわずかに低く響いた。
その一言に、護衛たちが一斉にうなずく。
王都商人の本能が、確かに反応していた。
だが――その瞬間。
ふわっ。
ウサギのマルシュが、灰の山に飛び込んだ。
もふもふの背中が灰を巻き上げ、光の粒が宙に舞う。
森の光と混ざり合い、まるで星屑のようにきらめいた。
エリザベート:「あー……また灰風呂してる。」
学者:「見事な“自然還元”ですね。」
クラウス:「……ちょ、待て、それは商品――」
灰はすでに風に乗り、森中へと散っていく。
花々がわずかに色を増し、木々の葉がやさしく震える。
まるで森そのものが、喜んでいるかのようだった。
エリザベート:「……ね? これ、森に返すのが正しいんですよ。」
クラウス:「……しかし、それでは利益が――」
エリザベート:「森はもう十分、稼いでますよ。」
クラウスは言葉を失った。
その瞳に、燃え残った焚き火の光が映る。
灰――燃え尽きたものの中に、
まだ温もりが残っている。
彼は初めて理解した。
焚き火の価値とは、燃やした後にも息づくものなのだと。
放浪学者:「つまり、“経済的には損、精神的には黒字”ですな。」
エリザベート:「最高の決算です。」
マルシュがもふっと跳ね、灰を最後のひとつまみ空へ飛ばす。
それは風に乗って、遠くまで光りながら消えていった。
――焚き火の灰。
そこに宿るのは、金貨では測れない“余熱”の価値だった。




