Scene 31:灰の噂、王都へ
王都リュミエル。白亜の尖塔が並び、商人たちの声が朝靄をかき分ける。
その喧騒の中に、奇妙な噂が流れ始めていた。
「辺境の森に、“黄金より価値のある灰”があるらしい。」
「燃やした後の灰が光るって話だ。肥料にも、護符にもなるとか。」
「何を燃やしたらそんなことになるんだ……森ごと魔法か?」
どこから出たのかわからぬ風聞。
だが、商人という生き物は“匂い”に敏感だ。
金の匂いと聞けば、彼らは群れをなして嗅ぎつけに行く。
その中でも一人、特に鼻の利く男がいた。
リーベル商会の若き当主――クラウス・リーベル。
黒の上質な外套に銀の留め具。
整った顔立ちに一切の隙がなく、
彼の一言で王都の相場が一日で動くとまで言われる。
「……灰だと?」
クラウスは噂話を聞きながら、薄く笑った。
机の上には金貨と契約書の山。
しかしその手は一枚の地図を取り上げる。
「燃えた後の残りかすに価値があるなど、馬鹿げている。
だが――もし本当なら、あまりに面白い。」
彼の中で、利益と興味が同時に点火した。
儲け話の匂いがするなら、足を運ぶ価値がある。
部下たちは驚く。
「会長自ら辺境へ? 危険では?」
「あぁ。だが、放っておけば他の商会に先を越される。」
クラウスは上着を翻し、手早く出立の準備を命じた。
「灰に価値などあるものか。だが、儲かるなら行く。」
その声は冷静でありながら、どこか楽しげでもあった。
誰もまだ知らない――
その一歩が、“焚き火の恩返し”の始まりになることを。
焚き火の煙は、王都に届き、そして金の街を揺らし始めていた。




