Scene 26:聖なる怒号、森に響く
昼下がりの森に、重々しい足音が響いた。
黒衣の行列。銀の十字杖が光を反射し、風に揺れる。
王国教会の派遣団――その先頭を歩くのは、
眉間のシワが国家レベルと噂される男、審問官グラウスである。
> グラウス:「焚き火は禁忌だ! 神聖な炎を私的に使うとは何事か!」
その怒号は鳥を散らし、森を震わせた。
だが――焚き火の前にいたエリザベート(中身おじさん)は、
まるで風にでも話しかけられたように軽く振り返るだけだった。
> エリザベート:「……あ、火加減見ます?」
グラウス:「見る!」
即答だった。
怒りよりも、香りが勝った。
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近づいたグラウスの鼻を、何かがくすぐる。
スープの湯気。焼きたてのパン。
そして――ふわりと漂う、白いマシュマロの甘い香り。
> グラウス:「……む、これは……聖油の香りでは……ない。だが尊い……!」
放浪学者(小声):「……敵意を失う速度が早い。」
グラウスの額のシワが、すっと一本、消えた。
信仰と理性のあいだで葛藤する彼の表情は、
もはや“教会の威厳”ではなく、“おやつを前にした子供”である。
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> エリザベート:「まあ、せっかくだから座ってください。お茶、入れます?」
グラウス:「……いや、そんな、我々は審問に……審問……」
言葉が続かない。
スープの湯気が、思考を包み込む。
> グラウス:「……飲む。」
その瞬間、森の空気がふわっと柔らかくなった。
焚き火がパチリと音を立て、
まるで“ようこそ”と言うかのように火の粉が舞った。
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ナレーション:
> 「聖なる怒号は、森の香りに溶けた。
神の試練とマシュマロの甘味――その違いを、
このとき誰も説明できなかった。」




