Scene 17:第二陣の派遣、そして……
王都・作戦本部。
前回の“満腹帰還事件”から数日。
宰相の執務室には、異様な静寂が漂っていた。
机の上には、前線からの報告書。
そこには、たった一行。
「敵、おいしかったです。」
宰相は額を押さえ、低くうめいた。
「……第一陣が全員“満腹”で帰還、だと?」
「はい、戦意を完全に喪失した模様です。」
「……つまり、味でやられたのか。」
参謀たちは顔を見合わせた。
この国の歴史上、料理による敗北報告は初めてである。
やがて、宰相は重々しく言葉を吐いた。
「……次は、“味に厳しい者”を送るしかあるまい。」
そして派遣されたのは――
王国屈指の“鉄の舌”を持つ男。
騎士団長ガルド=ヴェルネ。
彼は、あらゆる宴会で料理に文句をつけてきた伝説の人物。
その厳しさから、料理人たちに“味の審判者”と恐れられている。
「我らの誇りを、食卓で汚させるな!」
「味に屈した第一陣の汚名、我らが晴らす!」
軍鼓が鳴り響く。
第二陣、“味覚特攻部隊”が出発した。
──数時間後、辺境の森。
焚き火。
香る炊き込みご飯。
ふわりと立つ湯気。
その香りが、風に乗って騎士団を包み込んだ。
「……なんだ、この……香りは……」
「白米ではない……旨味が層になっている……!」
「油断するな! これは嗅覚への罠だ!」
しかし、もう遅かった。
夜。
月が昇り、焚き火の周りに鎧の音が響く。
団長ガルドは箸を置き、静かに目を閉じた。
「……敵は……炊き込みご飯でした……」
翌朝。王都。
報告を聞いた宰相は、机に突っ伏す。
「なぜだ……なぜこうも……主食が進化していく……!」
将軍がそっと呟く。
「次は……デザートが来るかもしれませんな。」
「やめろ。」
報告書 第17号
状況:戦闘なし
戦意:壊滅
原因:炊き込みご飯
備考:おこげが神
こうして、王国に新たな病が広がる。
“焚き火に行くと、満たされて帰ってくる病”。
誰もまだ知らなかった。
この美食侵略が、やがて“外交革命”と呼ばれることを。




