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悪役令嬢、今日も辺境でキャンプ防衛 ― 焚き火の火は消さないけれど、戦意はよく消える ―  作者: 南蛇井


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15/58

Scene 15:昼食休戦(胃袋外交)

 昼の光が木々の隙間から差し込み、焚き火の煙を金色に染めていた。

 辺境の森の奥、即席の円卓――いや、焚き火の周りで。

 王国の兵士たちと、“追放された悪役令嬢(中身おじさん)”が向かい合う。


 空気には、緊張と……スープの香り。


「旅の途中でしょう? スープぐらい飲んでいきなさい。」


 エリザベートは、木の器を片手に、まるでご近所のおばちゃんのような口調だった。

 湯気がふわりと兵士の頬を撫でる。


「い、いや、我々は敵で……!」


「スープは敵味方関係ないよ。」


 さらりと返され、言葉を失う兵士たち。

 見れば、彼女の傍らには白い野ウサギがちょこんと座っている。

 お玉で鍋をかき混ぜる姿が、どうにも“反乱軍”には見えなかった。


 やがて、木の器が一つ、二つと受け取られる。

 兵士の手がわずかに震える。

 その震えは恐怖ではなく、空腹からくるものだった。


「……うま……」


 一口飲んだ瞬間、理性が湯気に溶けた。

 舌に広がる、やさしい塩気と野菜の甘み。

 香草の香りが鼻に抜け、疲労がふっとほどける。


「……これ、なんの出汁だ?」

「秘密です。森の恵みと、ちょっとした気まぐれ。」


 意味があるようで、まるでない答え。

 だが、不思議と納得してしまう。


 やがて剣は地面に置かれ、兜は外され、

 誰からともなく世間話が始まった。


「……この辺、夜は冷えるんですね。」

「うん。でも星がきれいだよ。あと虫も多い。」

「……虫、苦手なんです。」

「あら、かわいいとこあるじゃない。」


 焚き火がパチパチと鳴るたびに、兵士たちの緊張がほどけていく。

 気づけば、彼らの輪は完全に“キャンプ仲間”のそれだった。


「反乱軍の……拠点、じゃないんですか?」

「うん。どちらかといえば……晩ご飯会かな。」


 兵士たちは思わず吹き出した。

 そして、笑いながらもう一杯、スープをおかわりする。


 昼下がり。

 敵味方の境界は、湯気のように淡く消えていった。


「いいか、みんな。今日のことは……報告書に書くなよ。」

「了解です。……でも、美味しかったことは書いていいですか?」

「それは……まあ、仕方ないな。」


 その日、“戦場”は“昼食会場”へと姿を変えた。


 こうして、王国とキャンプギルドの最初の“和平交渉”は、

 わずか一杯のスープによって成立したのである。

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