Scene 15:昼食休戦(胃袋外交)
昼の光が木々の隙間から差し込み、焚き火の煙を金色に染めていた。
辺境の森の奥、即席の円卓――いや、焚き火の周りで。
王国の兵士たちと、“追放された悪役令嬢(中身おじさん)”が向かい合う。
空気には、緊張と……スープの香り。
「旅の途中でしょう? スープぐらい飲んでいきなさい。」
エリザベートは、木の器を片手に、まるでご近所のおばちゃんのような口調だった。
湯気がふわりと兵士の頬を撫でる。
「い、いや、我々は敵で……!」
「スープは敵味方関係ないよ。」
さらりと返され、言葉を失う兵士たち。
見れば、彼女の傍らには白い野ウサギがちょこんと座っている。
お玉で鍋をかき混ぜる姿が、どうにも“反乱軍”には見えなかった。
やがて、木の器が一つ、二つと受け取られる。
兵士の手がわずかに震える。
その震えは恐怖ではなく、空腹からくるものだった。
「……うま……」
一口飲んだ瞬間、理性が湯気に溶けた。
舌に広がる、やさしい塩気と野菜の甘み。
香草の香りが鼻に抜け、疲労がふっとほどける。
「……これ、なんの出汁だ?」
「秘密です。森の恵みと、ちょっとした気まぐれ。」
意味があるようで、まるでない答え。
だが、不思議と納得してしまう。
やがて剣は地面に置かれ、兜は外され、
誰からともなく世間話が始まった。
「……この辺、夜は冷えるんですね。」
「うん。でも星がきれいだよ。あと虫も多い。」
「……虫、苦手なんです。」
「あら、かわいいとこあるじゃない。」
焚き火がパチパチと鳴るたびに、兵士たちの緊張がほどけていく。
気づけば、彼らの輪は完全に“キャンプ仲間”のそれだった。
「反乱軍の……拠点、じゃないんですか?」
「うん。どちらかといえば……晩ご飯会かな。」
兵士たちは思わず吹き出した。
そして、笑いながらもう一杯、スープをおかわりする。
昼下がり。
敵味方の境界は、湯気のように淡く消えていった。
「いいか、みんな。今日のことは……報告書に書くなよ。」
「了解です。……でも、美味しかったことは書いていいですか?」
「それは……まあ、仕方ないな。」
その日、“戦場”は“昼食会場”へと姿を変えた。
こうして、王国とキャンプギルドの最初の“和平交渉”は、
わずか一杯のスープによって成立したのである。




