Scene 14:初接触(森の中の香り)
辺境の森。
深い木々の間を、鎧の音を響かせながら進む一団があった。
王国が誇る“焚き火偵察隊”――だがその実、ただの中堅兵士たちである。
「目標地点まであとわずか! 各員、警戒を怠るな!」
隊長の低い声に、兵たちは緊張で背筋を伸ばした。
だがそのとき――風向きが変わる。
ふわり、と。
どこかから漂ってくる、香ばしい香り。
「……な、なんだこの香りは……」
「敵が……毒ガスを使ったのか!?」
「ま、待て! この香り……どこかで嗅いだことがあるぞ……」
兵の一人が鼻をくんくんさせる。
「……焼きたてのパンの匂い、です……」
一瞬、全員が固まる。
次の瞬間、彼らの腹が同時に鳴った。
「……ごくり。」
音もなく進む偵察隊。
やがて、木々の隙間から光が漏れ――視界がひらける。
そこにあったのは、穏やかな焚き火。
小さな鍋から立ちのぼる湯気。
そして、片手にお玉を持ち、にこにこと鍋をかき混ぜる“追放された悪役令嬢”。
いや、正確には――
中身おじさんである。
「お、おのれ! 油断するな! 敵の甘言に乗るな!」
「あ、あの……食べます?」
にこやかに差し出される木の器。
湯気と共に立ち上る香りは、敵意というよりも“家庭の味”。
「……いや、その……我々は任務で……」
「任務の前に、腹ごしらえだろ?」
言葉の隙に、隊長の胃袋が鳴る。
「……(くっ……この匂い、反則だ……)」
やがて、誰からともなく腰を下ろした。
剣を置き、盾を下ろし、ただ静かにスープを受け取る。
「……うまっ。」
「な、なにこれ……野菜の甘みが……」
「敵……いや、料理人だなこれ……」
エリザベート(中身おじさん)は満足げにうなずいた。
「ふふ。火の前では、みんな同じ顔になるもんだ。」
木々のざわめき、スープの湯気、そしてほのかな笑い声。
そのすべてが、どこまでも平和だった。
こうして、
“焚き火偵察隊”は史上初の敗北を喫した。
戦闘ではなく――昼食によって。




