Scene 12:外の世界がざわつく(終幕)
夜が明ける前――王都の上空に、薄い朝霧がかかっていた。
城壁の見張り台で、兵士が望遠鏡をのぞきながらつぶやく。
「また煙が上がってる……あれは一体、何なんだ?」
その報告は、瞬く間に広がった。
王都の反応
宮廷の戦略室では、地図の上に小さな×印が増えていく。
「辺境に“焚き火の民”と呼ばれる集団が現れたそうです!」
「焚き火の……民?」
「はい、どうやら夜な夜な火を囲み、奇妙な儀式をしているとか。」
儀式(=夕食)。
「人数は増え続けております!」
「やはり反乱の兆しか……!」
「もしくは、新たな宗派かもしれません!」
議論は白熱し、国の重鎮たちは眉をひそめた。
誰も知らなかった――その“勢力”の中心に、
パンを焼いて喜ぶ令嬢がいることを。
学者たちの反応
王立学会では、“辺境社会における火の文化的再興”という論文が急増。
誰も現地を見たことがないのに、立派な理論が次々と生まれていく。
「彼らはきっと、自然回帰の哲学を実践しているのだ!」
「火を絶やさぬことが、生命の輪を象徴している!」
「飯を焦がすな、とはつまり“過ちを恐れぬ勇気”の比喩だ!」
拍手喝采。だが全員、焚き火で湯を沸かしたことすらない。
諸侯たちの反応
「ふむ……焚き火の民か。利用できるな。」
「では、同盟を結ぶか?」
「いや、まずは使者を送ろう。煙の向こうに何があるのか確かめねば。」
そうして、辺境へ向かう使節団の準備が進められていく。
誰もが、そこに“力”や“思想”を見た。
しかし真実は――ただのキャンプだった。
一方そのころ、森の奥では。
エリザベートたちは、いつものように焚き火を囲んでいた。
夜露が下り、薪がしっとりとした音を立てて燃える。
「……明日は晴れるといいな。」
「ああ。煙が真っ直ぐ上がる朝は、なんか気分がいい。」
寝袋にくるまったまま、誰かがあくびをする。
マルシュが丸まって、尻尾をぴくりと動かした。
火の粉がふわりと舞い、星の海に消えていく。
その小さな光は、
この時代の誰も知らなかった――
“キャンプギルドの灯”。
後に百年語り継がれる“平和の象徴”となる焚き火の、最初の一つだった。




