Scene 11:夜の会議(ギルドらしき会話)
夜の森に、またひとつ焚き火が灯る。
煙がまっすぐに伸び、星々の間へと溶けていく。
その周りに、丸い影が五つ。
元貴族、元騎士、元料理人、元学者、そしてウサギ。
彼らは真剣な表情で――
いや、それっぽい顔で、木の丸太を囲んでいた。
「では――今夜も“ギルド会議”を始めよう。」
そう言って立ち上がるのは、悪役令嬢(中身おじさん)エリザベート。
焚き火の明かりが、ゆらりとその金髪を照らす。
けれど口から出るのは、どう考えても令嬢のセリフではない。
「まず、昨日の議題“鍋の焦げ問題”についてだが――
原因は火力の見積もりミス。責任は……火そのものにある。」
「異議なし!」
料理人が即答する。
焚き火が“パチン”と鳴り、まるで拍手のようだった。
「では次。明日の方針は?」
放浪騎士・レオンが問いかける。
顔は真剣、内容はピクニック。
「川の上流で焚き火。あと、新しいスプーンの試作品を試す。」
「了解しました。」
「スプーンに改良が必要とは、文化の進歩を感じますな。」
学者がノートを開き、火の観察記録を書き留めている。
そこには「炎のゆらめき=心拍の安定」とか
「スープの粘度=幸福度」とか、よくわからない数式が並んでいた。
「あ、あと次の料理案ですが――燻製に挑戦します。」
料理人が胸を張る。
その表情は戦略会議の提案というより、遠足の報告に近い。
「燻製か……それは敵に煙を悟られる危険があるな。」
「いや、もう悟られてると思うぞ。」
「まあいい。香りで勝つ戦もある。」
誰もツッコまない。
焚き火が燃える音が、議事録代わりだった。
そのとき、ウサギのマルシュが「ピッ」と鳴いた。
皆が一斉に振り向く。
このギルドにおいて、マルシュの鳴き声は投票権と同義である。
「……議決、可決。」
エリザベートが頷き、全員が拍手。
内容は誰も理解していないが、雰囲気だけは民主的だった。
「さて、議題は以上。次回は“星の数を数える会”だ。」
「参加します。」
「火の明かりが邪魔では?」
「じゃあ少し弱火にしよう。」
そんなどうでもいいやり取りの中、
夜風が吹き、火の粉が星に混ざっていく。
外の世界では、彼らを“辺境の新興勢力”と恐れていた。
しかしその実態は――
ただのキャンプ愛好会である。
「いい会議だったな。」
「ああ、腹が減った。」
「議事録、鍋の底に沈みました。」
焚き火が、笑うように弾けた。




