Scene 1:断罪イベント(ゆるめの地獄)
天井まで届く白大理石の柱。
光を受けて輝く聖堂のステンドグラス。
その中心で、王太子アランは芝居がかった声で叫んだ。
「エリザベート・フォン・アルメリア! お前の傲慢と陰謀を──ここに断罪する!」
群衆がどよめく。
ざまあみろ、偽善者、王太子殿下バンザイ!
罵声と歓声が入り混じり、聖堂は一種のカーニバルと化していた。
だがその中心で、罪人と呼ばれた少女――いや、中身おじさんのエリザベートは、
まるで別の次元を見ていた。
(……断罪? あっ、それで自由になるってこと? 最高じゃん。)
内心では笑っていた。
なにせ、転生してから三年。貴族社会のルールに合わせるのが、何よりも面倒だった。
食事はフォーク三本、ドレスは一日三回着替え、社交は三倍疲れる。
そんな生活から、ようやく卒業。
おじさんの中で、自由の鐘が鳴り響いていた。
「貴様は王太子妃の座を狙い、他貴族を陥れようと――!」
(長いな……このあと“追放”って言えば終わりなんだろ?)
アランの演説が続く中、エリザベートはふと窓の外に目を向けた。
夕陽が傾き、ステンドグラスを茜色に染める。
あれは、いい焚き火日和の空だ。
(もう少しで日が暮れる。……あの調子なら、追放宣言までもう十分はあるな。
その間に……今夜の装備確認しとくか。)
ドレスの裾を少し上げ、隠していた小型バッグをそっと確認。
中には――
小型魔導コンロ(旅人用・安全弁つき)
折りたたみ式ポット(実は鍛冶屋で自作)
そして、丸めた紙束――「自作テント設計図」
(よし。調理器具よし、寝具よし、心の準備よし。
あとは静かな森と、誰にも邪魔されない夜があれば完璧だ。)
王太子が「お前の行いは国に恥をかかせ――!」と熱弁している最中、
彼女は頷きながら“燃料の残量”を頭の中で数えていた。
当然、誰も気づかない。
群衆の中で涙を拭う令嬢、怒号を上げる取り巻き。
だが、エリザベートの目には、彼らすべてが遠いキャンプ場の虫にしか見えなかった。
やがて、王太子は胸を張って言い放つ。
「ゆえに! エリザベート・フォン・アルメリア! 貴様を王都より追放とする!」
その瞬間――
エリザベートは、微笑んだ。
それは嘲笑でも、諦めでもない。
焚き火を前にしたキャンパーの笑顔だった。
(ありがとう、アランくん。
……おかげで、明日から毎日キャンプ三昧だ。)
聖堂に響く群衆の喚声を背に、
彼女はゆっくりと背を向ける。
裾を翻し、黄金の光を浴びながら、ただ一言。
「──荷物、まとめておいてよかったわ。」
その姿を見た者たちは、
彼女が「悔しさをこらえている」と勘違いしたという。
本当は、次の言葉を飲み込んでいた。
(マシュマロ、ちゃんと残ってるかな……)
――これが、後に“焚き火令嬢”と呼ばれる女の、最初の笑顔である。




