第二章:第一の噂 ― 図書室の少女
學園の七不思議のうち、最も有名なのが「図書室の少女」だった。
夜の図書室でページをめくる音が聞こえるとき、そこには黒髪の少女がいる。
本を閉じる音が聞こえると、誰かの記憶が一冊、消える――。
翼は手にしているぬいぐるみ「とと」をぎゅっと抱きしめながら、震える声で言った。
「ねえ、まだやめられるんじゃ……こ、こんなのただの噂でいいじゃん……」
「残念でしたー。調査隊、すでに任務開始ってことで」
海斗が笑いながら図書室の重たい扉を開けた。ガチャ……ぎい、と、金属のきしむ音が夜の校舎に広がる。
「静かに。ここ、本気で音が響く」
悠真が低く囁き、三人は図書室に足を踏み入れた。
中はひんやりとしており、昼間の明るさなどまるで嘘のように沈んだ空気が漂っている。棚にずらりと並ぶ本たちが、今にも語り出しそうな気配すらあった。
「……な、なんもないよね。もう帰ろ?」
「いや、ほら。あの奥の机、誰か座ってる」
海斗の指差す先。そこには、本当に、誰かがいた。
黒髪の少女が、静かに本を読んでいた。薄く開いた唇、わずかに揺れるページ。姿は透けていて、確かに……人ではなかった。
「お、おばけっ……! ひっ……」
翼がしゃがみ込み、ととを顔に押し付けた。そんな彼の背中に、悠真の手がそっと置かれる。
「大丈夫だ。まだこっちに気づいていない。声をかけるのは俺がやる」
悠真がゆっくりと少女に近づく。
「……君は、誰だ? ここで何をしている?」
少女の目が、静かに彼を見た。
「私は……忘れられたくないの」
その一言に、悠真も海斗も言葉を失った。だが、翼だけが、小さな声でつぶやいた。
「……記憶を……守ってるの?」
少女が、少しだけ笑った。
「――そう。誰かの大切な記憶が、本の中に残ってる。私は、それを読んでるの」
「でも、どうして……?」
「……誰も、覚えていてくれないから」
その声は、どこか寂しげで、それでいて優しかった。
「君の名前は?」
翼が、おそるおそる立ち上がり、ぬいぐるみを抱えたまま問いかける。
「……篠原 静。昔、この學園にいたの」




