遠くへ行きたい
フラフラと歩くノゾムは、通り道の向こうにいた。
「え……?あれは、ノゾム?」
驚いたおれの隣にいたミミもおれと同じような顔をしていた。
「なんで…?まさかあの時…。」
「あの時ってなんだ……?」
「君が現世で意識を失った時の話よ。記憶にない?すごい衝撃音があったのよ。」
「…え?あれは、自分の心臓の音かと…。」
「………。」
「……ミミ、何か知ってることあるなら言ってくれよ。」
「…私もわからないわよ。でも、あの時の衝撃音は…何かの事故の音だったかも…。もしかしたら心配してきた彼が何らかの事故に遭ったかも知れないわ。」
「………それで、ノゾムは…。」
「…………命を落とした可能性が非常に高いわ。」
彼女の言葉を信じられる気はしなかった。
「な、なんでだよ!??なんで今頃アイツがここにいるんだよ!!?もう三ヶ月以上経つんだぞ!?そんな前の話……!」
「前も言ったでしょ?ここの時間の速さは現世のスピードと違うのよ。……恐らく彼は、君が意識を失った後事故に遭って数分後に命を落としたのよ。それも、割と早くね。」
「なんでだよ!??あいつはこれからもっと別の道を!!」
「………わからないわよ。それが彼の運命だったんだから、受け入れるしかないわ。」
「そ、そんな…….。」
とても冷静でいられなかった。
おれとミミの様子を見て、残された二人の女神はキョトンとしていた。
「おい、ヒビキ?あれはお前の元メンバーなのかい?それなら話しかけてこいよ?」
「そ、そうですよ、ヒビキ君!事情はわからないですが、話しかけた方が良いかと!」
「それによぉ、バンドマンでコープランドに来るなんて、よっぽど真面目に生きてきてたんだな!いっそのことヒミアスタに入れたらどうだ?!なはは♪」
「そ、そんな急に!…でも、コープランドにいるということは、タマの言う通りすごく真っ当に生きた魂だったんでしょうね…。」
二人はそんな話をしていた。
「あ、ああ…。…でも、会いに行くのは…。」
「大丈夫!私達もついてるから!」
ミミがおれの方を強い目で見た。
「ミミ……なら、行ってみるか…!」
おれ達はノゾムの元へ走って行った。
「ノゾム!ノゾム!!」
おれがノゾムの名前を呼ぶとゆっくりとこちらに振り向いた。
「………シュン?」
「ノゾム!!!そうだよ!おれだ!シュンだよ!なんでここに来たんだよ?!お前も現世から神に呼び出されたのか?!」
「…………。」
ノゾムはおれ達の方を無表情で眺めていた。
「………“現世”ってことは、やっぱり僕は死んだんだね。」
「………そ、それは…。」
「……ホテルの窓から薄着で公園にいるシュンを見つけたんだ。……僕はすごく不安になってホテルを出たんだよ。シュンのところに行こうと思って……。そしたら歩道を走っていた不良達の原付バイクに当たって……気づいたらここにいたんだ。」
「そ、そんな…!」
「………やっぱり僕は死んだんだね。何もわからなくて2日くらいここらへんをフラフラ歩いていたんだけど、ここは天国みたいなところなのかな。はは…。」
「……そ、そうだよ。ここは普通のバンドマンじゃ来れないようなすごく豊かな天国なんだ!ノゾムは真面目に人生を歩んでいたからここに来れたんだよ!」
「………死んだ後の話をされてもな。生きてるうちに幸せを噛み締めたかったよ…。」
「………。」
「……シュン、さっき君は“お前も現世から呼び出されたか”って僕に聞いたよね?それってどういう意味なんだ?」
「い、いや、それは……」
「……シュンはまだ生きてるのか?その周りにいる人達は神様だったりして、その人達に呼び出されただけで、君は死んでないとか?」
「………。」
「………僕の勘が当たっていた時、黙るのはシュンの図星の合図だね。わかった。突拍子のない質問をしたつもりだったけど、本当に当たっているなんてね……君が死んでなかったんなら良かったよ……。」
表情を何も変えずにノゾムは歩き出した。
「ノゾム!ちょっと待ってくれ!」
おれはノゾムの肩を掴んだ。
「………なんだい?」
「お、おれな?今、この世界でバンドやってるんだよ、後ろにいる女神達と一緒に。の、ノゾムもやらないか?!」
「……バンド?」
「あ、ああ!そうだよ!ノゾムも一緒に音楽しt……」
「ふざけるなよ!!!シュンタロウ!!!!」
ノゾムが明らかに怒りの顔でおれを睨んだ。
「の、ノゾム…。」
「ふざけるなよ!君が“バンドが辛い”と言ったんだ!!“音楽をやることが辛い”と言ったから、僕達は解散を決めたんだ!!!なんでそんな君がここでヘラヘラと音楽をして元メンバーをバンドに勧誘できるんだよ!!!?」
「…そ、それは…。」
「それに!君はまだ生きているんだ!!!こんな理不尽があるか?!君は自殺未遂しても生きて、心配した僕が死んだんだ!!!なんでお前はそんなに人の心がわからないんだよ?!!!少しは考えろよ!!!!」
「…………。」
ノゾムの言っことになんの反論もできなかった。彼の言う通りだ。おれはなんでこんなに人の気持ちがわからないんだろう。この世界に来てお金を稼いだことで何か勘違いでもしてたんだろうか。
「………シュンの後ろにいる方達。貴方達は女神様ですか?」
「え、ええ。私達は女神よ。」
ミミが恐る恐る答えた。
「なら、来世に行く方法も知ってますか?」
「…ええ。それはもちろん。でも、あなたは別にすぐに来世へ向かう必要はないわ。この世界でゆっくり満喫した後でも別にらいs…」
「そんなのは要らないです。早くこの記憶を消したいので…。」
「……そう。ならあの大きな神殿の隣に来世へ向かう場所はあるわ。」
ミミはその場所を指さした。
「……ありがとうございます。それでは失礼します…。…じゃあね、シュン。君は君で楽しくやれば良いよ。」
ノゾムはそう言ってゆっくり足を進めた。
その後ろ姿に声をかけたのはミミだった。
「…ノゾム君。私は君の担当の神でもないし、神だからと言って偉そうなことは言えない。ただ、あなたがここに来たことは誇って良いことよ。…そして、シュンタロウ君をここに呼び出したのは私なの。彼にこの世界で音楽を無理やりやらせたのも私だし、彼は初め嫌がりながら、それでも歯を食いしばって頑張ったわ。別にヘラヘラして音楽をしていた訳じゃない。それだけはわかって欲しい。」
「……神って担当とかあるんですね。漫画みたいだ。」
「………私はね、ヒビキ……シュンタロウ君が音楽してるところをあなたに見てほしい。あなたに彼の音楽を聴いてほしいと思ってる。だから、それまでは来世に行かないでくれるかな?」
「………それは命令ですか?」
「違うわ。お願いしてるだけよ。」
「………一度遠くへ行きたい。」
「え?」
「…今は音楽を聴く気にはなれません。この辺りにいるとシュンの音楽が聴こえてきそうで、嫌だ。この世界は広そうですよね。……一人でゆっくりいられる場所に行かせてくれるなら、少しくらいは…待ちます。」
「…わかったわ。今私達がいるこの場所はハチノクニ。あなたをロクノクニに移動させる。ロクノクニは草原も多いからひとりでゆっくりできると思う。」
「…ありがとうございます。」
「そこで待ってて。」
「……少しだけですよ。」
ミミは転移スキルの準備をした。
「ノゾム!!」
「…シュン?」
「おれ、もう一回ここで頑張ろうと思えた!自分勝手だけど、今は音楽楽しいと思ってる!!…おれさ、この世界で800万人の前でライブしたいって思ってる!!お前がどこにいても聴こえるくらいの音量でライブするから!!聴こえた時は……。」
「…聴こえた時は?」
「……拍手して欲しい…。」
「……ふふっ!はははっ!相変わらず本当に自分勝手なやつだね!!……わかったよ。拍手してあげるよ。ただ、800万人のライブなんて何考えてるんだよ!ふふっ!」
「う、うるさいな!この世界は人口が多いんだよ!」
「ははっ!はいはい!シュンにできるとは思えないけど、楽しいって思える間にそこに行けたら良いね。」
「……うん。……なぁ、ノゾムはまだ現世に戻りたいか?」
「…死んだやつに何聞いてるんだよ?そんなの、生き返れるなら誰だって生き返りたいさ。」
「………わかった。」
「………?」
ノゾムは不思議そうな顔をしながらミミの転移スキルで消えていった。
ミミと残り二人の女神はおれを心配そうな顔で見ていた。
お読みいただきありがとうございます。
今タイトルは、中村八代氏作曲、永六輔氏作詞の楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




