そばかす
シティエストの店から出て、おれ達は家に向かって歩いていた。ミミは今日の晩御飯は何にしようかなんて話をしていた。
「……なぁ、ミミ。」
「ん?どうしたの?」
「おれは、あのギターを弾いていいのかな?」
「なんでよ?弾けばいいじゃない?」
「だって、あんな歴史の…闇の深いものをおれが簡単に弾くことできねぇよ。」
「何言ってんのよ!この世界に来た初日に簡単に弾いてたじゃない?」
「そ、それは何も知らなかったから!」
「いい?楽器っていうのは弾かれてこそ意味があるの。誰も弾かないギターなんて、ただのオブジェよ。そんなの可哀想。」
「……。」
「あのギターは戦争以来ほとんど誰からも触れられなくて、あたしが触ってから700年以上弾かれるのを待ってたのよ。それで何も知らない君が簡単に弾いた。この世界にいる人なら恐れ多くて誰も触りたがらないかも知れないそれをね。元はただの楽器なのに、勝手に恐怖の目で見られて触られない楽器を君は弾いてあげたんだよ。どんな音だったか覚えてる?」
「…すごく美しかった。」
「そうね。私もそう思ったよ。きっとあれはあのギターの歓喜の声よ。あの楽器には魂がちゃんと宿っているわ。」
「そうか……ん?ギターとかって基本的には楽器の魂が集まる世界に行くんじゃなかったか?植物の世界に近いとか前言ってただろ?なんであのギターに魂があるんだよ?」
少し俯き加減になったミミが懐かしそうな顔で口を開いた。
「……そうね。それだけは君に伝えておいたほうがいいわね。君の言った通り、基本的に植物や、植物から作られた楽器達の魂は別の世界に集められるわ。もちろんこのコープランドにある植物も全てトレースしてるものだから魂はない。シティエスト君の作った楽器も、トレースした樹木から作っているから当然魂はない。……前世を終えた木々の魂は、例外なくすべて植物の世界に還るわ。」
「え、ならどういうことだよ?説明になってないぞ?なんであのギターの魂がここにいるんだ?」
「……あの魂には前世がないのよ。」
「……え?」
「………あれはある神がこの世界のために作ったギターなんだよ。コープランドで作られて、その場で生み出した魂を込められた……。ただ、それだけよ。」
「……間違ってたら悪いけど、もしかして“ある神”って…」
「…君は勘が鋭いね。私がギターを譲り受けた神と同一人物だよ。」
「やっぱりか。その神がこの世界でギターを作って、それを使って誰かがライブして戦争を引き起こして、そのギターが何百年かけてまたその神に戻って…それでミミに渡った…。なんだこの話。頭おかしくなりそうだ…。」
「だから君は余計なこと考えずにあのギターを弾けばいいんだよ!私は、あのギターが奏でたかった音はメタルとかそんなんじゃなくて、君の作る音だと思ってる!別にメタルが悪いとは言わないけど!私はライブで血を流すより、感動して涙を流す方が良いと思ってる!」
「……あのギターのためにおれを呼んだのか?この世界に。」
「ち、違うわよ!呼び出した理由は前に話したでしょ!?」
「……そうだな!ははは!ごめんごめん!変な詮索しちゃってたよ!」
「もぉー!やめてよね!ふふっ♪」
ようやくいつものミミらしくなった。
「それにしても、一億人のライブステージなんて、地球じゃ聞いたこともないぞ?」
「そりゃそうよ!コープランドでもひとつしかないわ!イチノクニにあるけど、もう何百年も使われてないはずよ?」
「ふーん。ならまぁ800万人ライブ終わったら考えるか!ははっ!」
「え?!あそこに立つの?!」
「いやぁ、わからないけどさ!最近少し考えてたんだよ。“800万人ライブ終わったらどうしよう”って。現世に返してもらうのも良いんだけど、本当にその瞬間に直面した時に現世に戻れることを喜べるかなって。だから、それくらいの目標達成した方が面白いかなって思ってさ!」
「……君は本当に変わってるね。」
「ん?そうか?ははっ!」
そんな話を続けていた。
コープランドの居心地の良さから長居をしたいのか、それともヒミアスタのみんなが好きだから離れたくないのか、それともミミと離れるのが嫌なのか、その時のおれは考えもしなかった。
街の中で知っている顔の2人が立っていた。
「……お!来た来た!よぉ!おふたりさん!例のギターは手に入ったかい?!」
「み、ミミ!ヒビキ君!お疲れ様です!どうでしたか?」
「タマ、アリア!なんでふたりがここにいるんだよ!?」
「ん?……まぁ…それは、アリアとデート中で……たまたま…」
「ウフフっ♪違うでしょ、タマ。タマが“あのギター手にしたふたりに会いたい”って言ったんでしょ?」
「こ、こら!ばかアリア!そんな余計なこと言わなくて良いんだよ!」
「…はははっ!そうかー。ありがとう!でも、もう少し時間がかかりそうなんだよ。」
おれは合流した2人に今日の経緯を話しながら歩いた。
「ほぉーん?なかなかメンテナンスも大変なんだなー。」
「お、思っていた以上ですね。そんな簡単に直るようなものではありませんか。シティエストさんも大変な仕事を引き受けてしまったものですね…。」
そんな話をしながらおれ達はミミの家へ向かっていた。
街は普段通り賑わっていて、みんな楽しそうだった。
いろんな人が笑っていて、幸せそうだった。
その中で1人だけ何の感情も持たずに歩いている男性がいた。フラフラと歩く彼の姿を、おれは知っていた。
「………え?………なんで?」
そう言ったおれの顔を見たミミは、その視線の方向を見て声を出した。
「……え?!」
おれ達の目線の先には、現世で一緒にバンドをしていたメンバーの、ノゾムがいた。
お読みいただきありがとうございます。
今タイトルはJUDY AND MARYさんの楽曲から拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




