バンザイ -好きでよかった-
ミミの放った言葉を真面目に受け取れる気はしなかった。
「な、何かの見間違いじゃないのか…500カーズって…。」
「そんなに疑うなら自分の目で見てみなさいよ!ほら!」
ミミが向けた画面には確かに“500カーズ”という文字が入っていた。
「なんだよこれ……。これもイブキのおかげが?」
「んー今時間帯での内訳を見てるんだけど、イブキが出た後に投げてもらったのは70カーズね。残りの430カーズは、曲の最後あたりにほとんどが投げられてるわ…。」
「す、すげぇ……。あれか?もしかしてストイ様が大金を投げ銭してくれたとか?」
「それはないよ。ストイさんは君の性格をよく理解してる。それに、配信ライブでの投げ銭は一日ひとり10カーズまでって決まってるのよ。誰かひとりの贔屓じゃなくて、私達はみんなに投げ銭されたんだよ。」
「………ミミの書いた歌詞がバズったってことか?」
「どうだろう…ヒビキの作った曲がバズったのかも……。まぁ、でも…」
「あ、ああ、そうだな……」
「「イブキは確実にバズったな。ね。」」
(キューーーゥン??)
イブキは何も知らずに自由に部屋を駆け回っていた。
「………ミミ。」
「んー?どうしたの?」
「……これで、3,000カーズだな…。」
「そうね!……嬉しくない?」
「……すっごく嬉しいよ…。でも、なんかな……。」
「…わかるよ。せっかくなら四人で喜びたかったよね……。」
「……そうだな。……。」
おれは四人でこの瞬間を迎えたかったのに、ミミと二人で迎えた今を素直に受け止めることができなかった。
「ごめんな、ミミ?すごいめでたいことなのに……。」
「仕方ないよー。気持ちはわかるよ。私だって二人だけの、それに一曲だけの配信でこんなに投げ銭が来るなんて思ってなかったし…。」
(ピンポーン♪ピンポン!ピンポンピンポンピポピポピポ………!!)
インターホンが壊れるような音を鳴らした。
おれ達は玄関まで走った。
(ドンドンドンドン!!)
(おい!!ミミ!!アタシ!タマだよ!!アリアもいる!!早く開けろ!ドアぶっ飛ばすぞ!!)
その声は確かにタマだった。
恐る恐るドアの鍵を開けた。
(ガチャ!!!)
「おい!ミミ!!!」
タマがとんでもないスピードでドアを開けてミミの前に立った。
「ど、どうしたのよ、タマ?なんでそんなに息荒いの…?」
「ハァハァ…ミミ…あの歌詞、間違いなくお前が書いたんだよな…?」
「え?あの歌詞って?配信の曲?……そ、そうだけど……」
タマは肩を震わせていた。
「お、お、お前天才かよーー!!めちゃくちゃいい歌詞じゃねえかよ!!?感動したぜ!!泣いちゃったじゃねぇかよぉ!おかげで酒が抜けちゃったよぉ…」
タマはミミに体を預けながら泣いていた。
「え、えぇ?!!」
「……はぁはぁ……た、タマがこうなるのも無理ありません。あんな素敵な曲、メンバーとして誇らしいです!!み、ミミもヒビキ君もすごいです!!ぼ、ボクも感動しちゃいました…。」
「ひ、ヒビキぃ!ちょっと助けてよ!」
「………タマ、アリア…。ごめん!!せっかくここまで頑張ってきたのに!!投げ銭がすごい額入ってしまって、さっき3,000カーズに到達したんだ……。四人でその瞬間を迎えたかったのに……。」
おれは二人に頭を下げた。
「お!?そうか!まぁそりゃそうだよな!あれだけいい歌だ!やったじゃねぇかよ!ヒビキ!」
「そ、そうなんですね!良かったです!おめでとうございます!」
二人はあまりおれの予想のしていなかった返事をした。
「………ん?」
「「……………ん?」」
「……いや、さ、3,000カーズ達成したのに、その瞬間を一緒に迎えられなかったことが…」
「……はぁ?それはお前の目標だろ?お前が勝手に達成して喜んでりゃいいじゃねぇか?」
「た、タマの言う通りですね。ヒビキ君が目標達成したんだから喜んでください!」
「……いやいや!え…?」
「なんだよ?めんどくせぇー。アタシは今ミミと話したいんだよ!お前はひとりで喜んでろ!」
「す、すいませんヒビキ君!ボクもミミと話したいので!」
「…………あれ?」
二人はミミに賞賛の言葉をいくつも投げかけていた。ミミはミミで照れながらも喜んでいた。
「………………おーい。3,000カーズ達成シマシタヨー……。」
「チッ!!!なんだよ!?お前褒めて欲しいのか?!はぁーー…はいはい、3,000カーズ貯めてえらいでちゅねー。」
「そんな言い方は良くないですよ!タマ!」
「あ、あのさ……目標達成したんだよ?おれ…。」
「だから知らねぇって!お前、それで音楽辞めるつもりなのか?!!!」
「い、いや!違うよ!メンテナンス料なんだから…」
「辞めねぇならこれからもバンドすんだろ?!
「あ、、はい。」
「お前の本当の目標は800万人ライブじゃなかったのかよ?!!」
「あ、、、はい…。」
「いちいち3,000カーズ貯まったくらいで喜んでられるか!!」
タマはそう言ってミミの方に抱きついていった。
「す、すいません、ヒビキ君。あの、なんと言いますか……。」
「………お、おれはさ!!3,000カーズ貯めたけど!こんなの使えないんだよ!!!」
おれの本音が爆発したような気がした。大声で全員に怒鳴った。
「……ずっと心の隅で考えてたんだ。……これはみんなで貯めたお金なんだ!!おれだけのために使うなんてあり得ないんだよ!!!みんなで分け合わないか!??おれだけのために使うなんて、もったいないって!!」
「……おい、ミミ。アンタ、アタシ達のことあんまり話してねぇだろ?」
「あ、あはは…。そうね。あんまり教えるとこの子すぐ甘えるから…。」
「な、なるほどです!ミミの考えも理解できます!」
「何話してるんだよ?!おれは均等に振り分けるからな!!?」
「アタシは要らねー。そんな端金。」
「ヒビキがひとりで始めたことだから、君が使えばいいと思うよー。みんなお金に興味ないし♪」
「あ、あの、ボクもその…それくらいのお金には興味ないので…。」
「…………え?3,000カーズって……女神様達にとっては、どんなもの?」
「はぁ?知らねぇよ。“プロフェッショナル”の取材か!!なはは♪」
「あれ?去年それくらいじゃなかった?私達のボーナス。」
「み、ミミ!桁が違いますよ!あれは300“アンズ”です!」
おれの知らない単位まで出てきた。
「……………。………とりあえずさ……………四人で今喜ばないか?“やったー”って……」
「は?なんでだよ?」
「なんでよー?もうふたりは喜んでくれたでしょ?これ以上喜ぶ意味がわからないわ!」
「ぼ、ボクもよくわからないです。」
「頼むから!!!!一回くらいおれと喜びを共有じでぐれ!!!!」
「「「…………。」」」
「一緒に喜びたいんだよぉ……うおおお!!!」
「……タマ、アリア……なんだかヒビキが不憫になってきたわ……。一緒に手を上げて喜んであげましょう…?」
「あ、ああ…。」
「は、はい…。」
「「「ヤッター。ヤッター。」」」
「うおお………お?あ、…やったー!!やったー!!!!」
ミミ達は三人揃って無表情でバンザイしていた。
仕方なくしていたとしてもどうでも良かった。どうでも良いからこの場を楽しみたかった。
「バンザーイ!やったー……。」
「どうでも良くないぞ!ヒビキ殿!!!」
おれの名前を勢いよく呼んだのは、なぜか部屋にいたストイ様だった。
お読みいただきありがとうございます。
今タイトルはウルフルズさんの楽曲より拝借致しました。
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とはいえ、私自身そういうことをしてこなかった者なので、しなくても全く問題ありません。
これからも『それでも尚、神に媚びる』をよろしくお願い致します。




